【漫画】アイリウム【感想】

6.5 out of 10 stars (6.5 / 10)

1錠飲めば1日分の記憶を飛ばすことができる薬、アイリウム。薬が効きはじめると、他人から見れば意識もあり普段通りの生活をしているように見えて、その間の記憶がまったくなくなってしまう。つまり、嫌な思いをする出来事の前に飲んでおけば、その事を思い出すことなく日常生活が送れるのだ。記憶を薬でコントロールできるようになった時、その人の生はどんな彩りになるのか…。

Amazonより抜粋
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DATA

  • タイトル:アイリウム
  • 作者:小出もと貴
  • 刊行年:2014年
  • 巻数:全1巻
  • 出版社:講談社
  • レーベル:モーニングKC

概要

本作は週刊モーニング2014年9号から2014年50号まで連載されていた作品です。
2018年には『世にも奇妙な物語』でドラマ化されています。
本作は1錠飲めば1日の記憶を飛ばす薬「アイリウム」と出会った人物たちの物語を描き世界観を共有していると思われるオムニバス形式の短編集となっています。

記憶を飛ばす薬「アイリウム」

先述した通り、本作に登場する薬アイリウムは記憶を飛ばす薬です。主に辛い時の前に飲んでその間の記憶を飛ばす事で、服用者視点では無かった事にする様な使われているそうです。
服用者視点だと効果が現れて視界がボヤケた後、未来へワープした様に見えるのだそうです。ただ実際は効果が出ている間も本人の意識があって、色々感じたり考えたりしているはずなのですが効果が切れるとその間の記憶が消えて服用前の意識が戻る事でワープした様に感じられるというのだから不思議な物です。本来なら記憶が無くなってしまうというのは色々不都合がありそうですが、忘却自体が精神衛生面で効果があるようですので、嫌な事があると予め分かっているのであれば、アイリウムは非常に効果的と言えるかも知れません。
またアイリウムは1錠で1日ですが、2錠で3日、3錠で7日と効果は増えていく様です。さらに1錠を分割する事で数時間という事も可能だそうで、作中ではその様に使われる場面があります。
使い所を誤らなければ便利そうな薬ではありますが、作中では年単位で飛ばしてしまうという恐るべき事態も存在します。数秒で意識が飛んで気が付いたら数年あるいは十数年経っていてその間の記憶が一切ないというのは恐ろしいですし、人生が空虚な物に感じられてしまいそうです。
しかしそんな危険性があっても、アイリウムが実在した場合は作中世界と同様、それなりに愛用者が出てきそうな気がします。

各話感想

各エピソードの簡単な感想を記して行きます。

File001 映画監督志望

映画監督として世に認められる事を目指して制作活動するも、なかなか認められず行き詰まりつつある青年が主人公です。
アイリウムの説明から魅力的な点や恐ろしい点全てが盛り込まれた導入としては文句なしのエピソードと言えそうです。

File002 兵士

本エピソードの主人公は紛争地帯らしき地域に展開している軍隊の兵士です。主人公や仲間の兵士たちは軍から支給されたアイリウムを服用します。
戦場でPTSDに罹ってしまうというのは第二次大戦の頃からあった様ですが、大きく扱われる様になったのはベトナム戦争からと思われます。兵士がPTSDを患うのは痛ましい話ではありますが、アイリウムのお陰で民間人巻き込んでもトラウマにならないからと張り切ってしまうのも如何なものかと思わなくもありません。
ただアイリウム服用すると仲間が減っていってしまうのも戦場故の恐ろしさと言えそうです。

File003 ママ友

皆で割ったアイリウムを飲んで色々打ち明けていきますが・・・という話です。
友達だからといってあまり過信は出来ないのかも知れないのかと思わされます。

File004 ロックンローラー

バツイチと思われるロック歌手である主人公は離れて暮らしていた娘から、結婚するので面会は最後にしたいと言われてアイリウムを服用するよう要求されます。
そしてアイリウムを飲んだ状態で、主人公は離婚までの経緯を語りますが、それもアイリウムに纏わる物でした。
主人公は元々覚悟の上だったのだろうという気がしますが、夫婦ともにアイリウムに振り回されたという印象を受けます。

File005 ホスト

主人公が勧誘されて勤め始めたホストクラブのオーナーは、アイリウムを悪用して従業員や客から搾取したりとやりたい放題のとんでもない輩でした。
そんな環境にいたたまれなくなった主人公は同僚と脱出しようとします。他のエピソードと比べてアイリウムを使った頭脳戦の様な様相を見せ、緊張感ある展開が特徴的です。

File006 女医

主人公である女医が勤める病院では、困難な手術を行う際にはアイリウムを服用させている様です。
しかし主人公は医者としての信念を以っている様でアイリウムに頼らずに手術を行っています。
本エピソード中ではアイリウムはだいぶ普及している様子が描かれ、世間では何か嫌なことがありそうならすぐ服用してしまうような風潮が出来つつあるあるように見えます。主人公の高校時代からの友人たちが集まった際の飲み会でも、服用してきている友人がいるほどです。
後に主人公が軽く咎めると、友人は「色々と上手くいっている人生だからそんな事が言えるんだよ」と言い放つ始末です。友人はもちろん服用しているので主人公に割と酷いこと言っても忘れてしまう訳ですが。
そんな事がありながらもあくまでアイリウムに頼らない主人公。エピソード終盤でも困難な手術に挑む事になりますが、主人公の医者としての信念や覚悟が見て取れる場面と言えるでしょう。

File007 研究者

冒頭、アイリウムの大量服用が社会問題になりつつある様子が描かれています。
大量服用は年単位で記憶を飛ばしてしまうため、飛んだ後の生活に支障が出かねない行動ではあります。また服用中の責任問題が問題になって来ている様ですが、それについてはFili005でも疑問に感じていた所ではあります。もっともあれは相手が裏社会の人間なので一般論が通用するかどうかという疑問もありましたが。
ラストとなる本エピソードの主人公はかつて研究者をしていたものの訳あって介護職に就いています。そんな主人公が仕事で訪れたのは、かつて主人公が研究室で働いた事がありアイリウムの開発者でもある教授だった人物でした。
この教授は開発のためなら人を人と思わぬ節があり、主人公もその犠牲者であった事が伺えます。実際に教授が主人公から話を聞こうとする辺りはそのマッドサイエンティストっぽさが出ていてドン引きしてしまいます。
しかしラストでは教授の劇的な新薬が出てきて、終了となります。

まとめ

本作はアイリウムに纏わる人間模様が描かれ、一部エピソードを除けば事件などは起こる様な物ではありません。アイリウムを利用した事件が起こったりする様な話も無くは無いといった程度で、そういった話は期待しない方が良いでしょう。
しかし時系列順になっていると思われる各エピソードの社会の変化が見て取れ、いくつかのエピソードではアイリウムの特性を使った伏線や騙し合いの様な部分もあります。
しかし全体的には意図的に記憶を飛ばす薬であるアイリウムがもたらす効能や弊害について語っている印象を受けました。こういう薬に頼りたくなるというのはそれだけストレスは晒されているには違いありませんが、精神疾患を患ってしまった訳でも無いのに薬に頼るのも如何なものかと思わなくもありませんが、服用することが予防に繋がっている可能性もありますので難しい所だと言えそうです。