【漫画】アレクサンドロス【感想】

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  • タイトル:アレクサンドロス
  • 作者:安彦良和
  • 刊行年:2018年
  • 巻数:全1巻
  • 出版社:文藝春秋
  • レーベル:文春デジタル漫画館
7.5 out of 10 stars (7.5 / 10)

かつて、地中海からインドにかけて、壮大な大帝国を築いた青年がいた。その名は、アレクサンドロス――。
紀元前359年、ギリシャ辺境の地マケドニアの王子として生まれ、父フィリッポスの急死により弱冠20歳の若さで即位するや、東方アジアへの遠征を敢行。小アジア、エジプトを制圧し、ついに宿敵・ダレイオス王を破り、ペルシャ帝国を征服する。しかし、アレクサンドロスの野望は止まることを知らない。さらに東方へ兵を進めようとする矢先、病に倒れ、33年の短い一生を閉じる。大王の死後、40年に渡る後継者戦争の末、アレクサンドロスの妻子は殺され家系は断絶、彼が築いた帝国は臣下たちによって解体され、分割統治されることになる。
マケドニア生まれの一青年を「世界」の涯へと駆り立てたものは一体何だったのか?  友人で部下のリュシマコスの目を通して描かれる、大王の知られざる真実の姿とは――。

Amazonより抜粋

概要

本作は2003年、NHKスペシャル『文明の道』コミカライズとして刊行された描き下ろし作品の電子書籍版です。古代にマケドニア王として即位し、ペルシア帝国を破るなどして1代限りの大帝国を築いたアレクサンドロス大王の生涯を描いています。

『後継者』の一人が語るアレキサンドロス

本作は「アレクサンドロス」大王没後、ディアドコイ(後継者)戦争を戦っている当事者の1人であるトラキア王「リュシマコス」の視点から始まります。
リュシマコスも老いてきた紀元前287年、彼はマケドニアの都市ミエザを訪れます。
この地はかつてマケドニア王フィリッポス2世が息子アレクサンドロスのために、哲学者アリストテレスを招いて学園を建てたそうです。そしてリュシマコスらも共に学んだ学友の様です。アレクサンドロスはアリストテレスから様々な学問を学びますが、その中にはペルシャの遥か東にあるインドに関する物もありました。
そんな学園時代へとリュシマコスの記憶は遡り、そこからリュシマコスによるアレクサンドロスの物語が語られ始めます。
ただ史実では後のディアドコイとなる将軍たちの内、エジプトに王朝を開いた「プトレマイオス」などは学友だった様ですが、リュシマコス自身については疑問符が付きます。
成長したアレクサンドロスは父の遠征に従って軍を率いて戦功を上げ、ギリシャの覇権を握る事に貢献します。
このままアレクサンドロスが父の跡を継ぐかと思いきや、父が新たな妻を娶ると折り合いが悪くなり、廃嫡を仄めかされるほどとなります。
しかしアレクサンドロスが20歳の時、父フィリッポス2世が都合の良いタイミングで暗殺されたため、アレクサンドロスはマケドニア王に即位します。

青年王の軌跡

実績の少ない若い君主が立つと、甘くみて良からぬ事を企む物が現れる物ですが、アレクサンドロス即位に際しても蛮族が蠢動し、離反する都市が現れますが、アレクサンドロスは軍を率いてこれらを討伐します。
そしてそれが済むと、アレクサンドロスは父王が計画していたギリシャの宿敵ペルシャへの遠征へ着手します。
しかしアレクサンドロスはペルシャの東、インドを制覇する事を考えていました。
そうしてペルシャに侵攻し前哨戦といえるグラニコス川の戦いで勝利を収めたマケドニア軍ですが、ペルシャ王ダレイオス自らが軍を率いて大軍をもってマケドニア軍の後方へ進出してくるという苦境に立たされます。
そうした状況下で起こったイッソスの戦いを最も重要な戦いだったとリュシマコスが述懐するのは当然と言えます。高い士気で倍以上のペルシャ軍を破ったマケドニア軍はペルシャを追い詰めていきます。

変質と失意

中盤以降、遠征の中でアレクサンドロスは変わって行きます。本作で描かれる変化は基本的に良くない物となっています。もっとも史実をベースにしている以上仕方ありませんが。その最初で明らかな物として、ペルシャの都にあった宮殿を焼くという物です。既に占領していたため、作戦上の焼き討ちとかで無くただ焼いただけという行為です。一応ペルシャに対する報復という言い訳があった様です。
しかしその後、インドへの遠征を強行します。本作でのアレクサンドロスはインドへ到達するのは念願ではありましたが、志半ばで終わってしまったのは歴史が示しています。
そんな中、アレクサンドロスはペルシャの形式を取り入れた事により、ペルシャかぶれと見る配下も出てきた事により、反発と陰謀、そして粛清が起こります。
それに巻き込まれた老将の末路は悲哀を感じずにはいられません。
そうした末に侵攻したインドですが、象兵などを用いた激しい抵抗やこれまでと全く異なる気候、さらにその広さに将兵の心は挫かれ、やがて遠征は志半ばで頓挫していきます。
その末の結末は史実からも分かるように歴史の無常を感じさせるものとなっています。

作画、雰囲気

最初の頃は台詞が多くて少し読みにくい印象を受けますが、少し物語が進み、成長したアレクサンドロスが東方遠征を開始するとそういった部分は目に見えて少なくなります。
それに変わってイッソスの戦いなどの戦が精緻に描かれているのは大きな見どころと言えるでしょう。

まとめ

本作はベテランである安彦氏が得意としている歴史漫画の一作で、歴史的に知名度が高いアレクサンドロス大王という題材もあって安定感のある作品という印象を受けます。
そのアレクサンドロス大王の事績をやや駆け足気味ながらも単行本一冊に収めたのは見事と言えそうです。
またあとがきでも安彦氏がアレキサンドロスなどに感じた事が記載されていて、それが作中にも反映されている事が分かるなど興味深いものとなっています。