DATE
- タイトル:盆の国
- 作者:スケラッコ
- 刊行年:2016年
- 巻数:全1巻
- 出版社:リイド社
- レーベル:トーチコミック

お盆を繰り返す町で巻き起こるエンドレスサマーストーリー!
トーチwebより抜粋
お祭り、夕立、花火、恋… いろんな夏が詰まってる。
お盆に帰ってくるご先祖さまの姿が見える女の子・秋。
会えないはずの人たちに、もう一度会える楽しい季節。
このままずっとお盆だったらいいのに…
ふと頭に浮かんだ妄想は、なぜか現実になってしまう。
同じ一日を繰り返す町の中で出会った謎の青年・夏夫と、
誰も知らない不思議な冒険がはじまる。
概要
本作は2016年にリイド社のトーチwebで連載されていた漫画です。
作者であるスケラッコ氏の初連載作品でもあるようです。
「おしょらいさん」が見える町
主人公「秋」が住む六堂町はお盆に帰ってくる方々を「おしょらいさん」と呼んでいて、それを見ることが出来る人が結構な割合でいる様です。
お盆に帰ってくるというのはつまるところ霊魂な訳ですが、通常描かれるおしょらいさんはおどろおどろしい存在では無く、一種の妖精か何かの様にコミカルな印象を受ける様な描かれ方をしています。
そしておしょらいさんが見える秋はかつての飼い猫や祖父が帰ってきたのを見て、楽しんでいる様子です。
そんな町特有の盆を楽しむため町を散歩する秋ですが、そのなかおしょらいさんが戻ってくる出入り口と言い伝えられている井戸や春に雷で破損した祠、そしてその雷で13人もの人が亡くなったといういかにも意味ありげな事が語られます。
そしておしょらいさんの中にはその落雷に打たれて亡くなった秋の同級生である「新見」を見付けたのが送り火前日の事でした。野球部に所属していた新見はグランドで部活中に雷に打たれたのだとか。グランドにいて金属バットでも使っていたならより危険性は高そうという気もしますが、そんな日になぜ外で部活していたのかとどうしても思ってしまう所でしょう。
そしてその晩、盆を楽しんでいたのと、盆が終わった後の考えると気が重たいらしい秋は、盆がずっと続けば良いのにと考えます。夏休みでは無く盆という所がポイントでしょうか。
その時秋は外にいましたが、突然空に巨大な渦が現れた上に見知らぬ青年に腕を掴まれた為、振りほどいて家に逃げ帰ります。
翌朝、当然送り火の日と思って家族と会話した秋ですが、会話が噛み合わずその日が送り火の前日である8月15日と知らされるというのが1話の話となります。
同じ日を繰り返す
その後秋は8月15日を何日か過ごします。
同じ日を繰り返すと言っても単純にループしている訳では無いようで、起こる出来事は異なり更には天候すら違う事もあるようです。これならエンドレスエイトされても問題無いかも知れません。
ただこの状況を把握しているのは秋だけの様で、どれだけ繰り返すか分からない以上、休みが増えているのを単純に喜べるという訳でもありません。そこで悩んでいた所、最初の15日晩に腕を掴んできた青年と再会します。「夏夫」と名乗る青年も状況を把握しており、2人は先述した春の雷がきっかけではなかったかといった考察や、ちょっとした検証をしますが状況を再確認する程度に留まっている様に思われます。
中盤になると様相は変わってきます。盆の1日を繰り返す事で霊魂が現世に定着してきたのか、おしょらいさんに触れる様になったり会話が出来る様になります。
侵食される現世
ここに至って、夏夫と秋は花火を送り火としておしょらいさんを送り返して行きます。
しかしその場にいるおしょらいさんにしか効果が無い上に、実際に帰るかどうかは当人の意志もある為、新見の様に拒否する例もあります。これは現世への未練があるという事の現れでしょう。もっとも新見の様な若者であれば未練があって当然と言えますが。
とは言え、当然ながらこれではキリがなく、なおも増え続けるおしょらいさんがこの世に定着していくため、生者と亡者が曖昧になっていっている様です。
終盤には夏夫や秋と関係のあるおしょらいさんの「ゆき」や夏夫と因縁のあるいかにもボスキャラ感ある悪霊じみた亡霊が登場します。
ただこの終盤に入ると話や描写が抽象的とも幻想的とも取れる場面が多くなります。この辺りは町の東にある山と山中に作られた屋敷が舞台になっています。単身乗り込んだ夏夫を秋が後から追って行くのですが、その前後辺りからの描写が独特な雰囲気となっていて人を選ぶかも知れません。何となくですがあの世とこの世、亡者と生者が曖昧になっている事を表現しているのかとも思いました。
ラストは幾分かの寂しさを感じさせつつも、前向きに終わるという余韻を感じさせる物でした。
まとめ
本作は六堂町という特殊な街の盆を舞台にしたファンタジー作品です。
見る人が見れば生きている住人と帰ってきた霊魂であるおしょらいさんが混在しているという状況から、様々な要因からの変化などが描かれています。
序盤こそコミカルに描かれている印象が強いですが、中盤からは幻想的描写と共に霊魂であるおしょらいさんとコミュニケーションが取れる事が出来る様になった事で感傷的に感じられる部分もあります。
大枠としてはひと夏の冒険譚といって良いのかも知れません。
個人的には雷に打たれて亡くなった女性に関する話が短いながらも印象的でした。