【ミステリ】コズミック-世紀末探偵神話【感想】

スポンサーリンク

DATA

  • 刊行年:1996年
  • 著者:清涼院 流水
  • 出版社:講談社
  • レーベル:講談社ノベルズ
3 out of 10 stars (3 / 10)

『今年、1200個の密室で、1200人が殺される。誰にも止めることはできない』―1994年が始まったまさにその瞬間、前代未聞の犯罪予告状が、「密室卿」を名のる正体不明の人物によって送りつけられる。
1年間―365日で1200人を殺そうと思えば、一日に最低3人は殺さねばならない。
だが、1200年もの間、誰にも解かれることのなかった密室の秘密を知ると豪語する「密室卿」は、それをいともたやすく敢行し、全国で不可解な密室殺人が続発する。
現場はきまって密室。被害者はそこで首を斬られて殺され、その背中には、被害者自身の血で『密室』の文字が記されている…。

Amazonより

概要

本作は「1200個の密室で1200人殺す」という煽り文句が一部で話題になったと思われる、清涼院流水のデビュー作です。
その内容は元日に1年間で1200の密室殺人を起こすと予告した『密室卿』とそれを追うJDC(日本探偵倶楽部)の対決を描いた作品です。
こういった内容の本作ですが、出来としてはどうだったかとなると、非常に厳しいと言わざるを得ません。
しかしネタ的な意味で楽しめるのは確かと言えるかも知れません。

前半

ミステリーとしてみた場合ですが、本作の前半では夥しい密室殺人が起きる様子が描かれています。
ある人は初詣の人ごみだったり、ある人はマンションの一室だったり、ある人は走っているタクシー内だったり、ある人はスカイダイビング中だったりといった具合です。
そういった状態で密室殺人が起こるまでのストーリーが描かれます。
個人的には直接密室殺人とは関わりませんが、少年がホームレスに追いかけられる話が印象に残っています。
しかし1年間で1200個と言いますと1日3、4個の密室殺人を起こすわけですから食事感覚で密室殺人を行っていると言えるかも知れません。実際その程度のペースで密室殺人が起こります。
とはいえこのペースでは作中で一つ一つの事件を捜査、推理する暇などありません。ましてや事件を起こす側もマトモなトリックなど用いていない事は明白と言えます。

後半

前半部分が作中作と明らかになり後半に入るとノリが変わり、JDCの『名』探偵たちが推理を楽しんでいる様子となりますが、本当に楽しんでいるようにしか見えません。
また探偵たちの言動もいかにもな漫画やラノベの様な物で個性的と言いたいように見えますが、そうは思えないのが不思議です。
もっとも当時ラノベという括りがあったかどうか覚えていませんが。
この冗長な推理シーンが解決にどの程度関連しているかというのは、聞かぬが花、というものです。推理はしても捜査はしていませんからそれもある意味当然でしょう。
ましてや犯人『密室卿』についてはトンデモな結論以外はありません。
犯行方法はミステリとして見れば反則みたいな物ですが、非現実的という訳ではありません。
しかし犯人となると理屈として分からなくはありませんが、読者の意表を付くことだけに的を絞りすぎたのではという気がします。

作風

次に作風についてです。
本作というより、いわゆるJDCシリーズに登場する探偵たちは固有の必殺技を思わせる推理方法を持っています。
例えば「統計推理」や「消去推理」などといった推理方法を用いる探偵がいますが、比較的マトモな方です。
むしろこの探偵以外がこの消去法での推理をしてはいけないのかとも思ってしまいますが、この探偵はそれぞれの推理のエキスパートということなのかも知れません。
他だと離れたところから事件全体を見下ろし、流れるままに思考を遊ばせて解決法を探る「俯瞰流考」や弁証法的推理「ジン推理」は一応別作品ですがシリーズ中で推理している場面があるので比較的分かりやすいです。
ただ歩きながら推理する「理路乱歩」や眠って推理する「悟理夢中」あたりなどになるとそれは推理なのかと思わずにいられません。
また最後に登場する探偵の推理は必要な手がかりが全て揃うと真相を悟る「神通理気」というもので、他の探偵いらないのではとも思う部分もありますが手がかりを揃えるのには必要という事なのかも知れません。
手がかりと言いますと本作に限らず、このシリーズでは物証などの概念が薄く、暗号やアナグラムなど他言葉遊びの類が優先される傾向にあり、それは文体などにも現れています。
例えばハートや音符が入ったり、アルファベットが割り込んだり、奇妙なルビなどといった特徴があり、この辺りは好みもありそうですが、個人的にはただでさえ長い作品をさらに読みにくくしている印象を受けました。

まとめ

1200個の密室で1200人を殺すという予告のインパクトは強いですが、反則的な犯行手口に非現実的な犯人や探偵など、本作は一般的なミステリを読みたいという方には決してオススメ出来ません。
長いと言うこともあって時間を無駄にするだけに終わります。
話のネタなどで読んでみたいというのであれば、一興というものでしょう。