2002年 KID
(9 / 10)
― 水深51mの海中に沈む海洋テーマパーク“LeMU(レミュウ)”。
ここに、なんの前触れもなく7人の男女が閉じ込められた。
徐々に失われていくもの:食料、水、酸素。
新たな脅威:深海に棲息する未知のウイルス。
さらに、苛烈な水圧にさらされたLeMUの隔壁は119時間以内に崩壊するという。
分厚いガラス窓の向こう側は、濃紺の深い闇……。
この閉ざされた空間の中で、限られた時間の中で、
次々と起こる危機を乗り越えながら、7人は脱出への道を探し求める。
概要と粗筋
『Ever17 the out of infinity』はKIDから発売された『infinity』シリーズの2作目に当たります。
所は東京都駒が原諸島沖、水中17~51メートルの海中に建設された海洋テーマパーク『LeMU』、連休中にこのテーマパークを襲った事故により七人の男女が取り残されます。彼らは脱出の道を探りますが・・・といった粗筋はミスリードと言っても過言ではない様な雰囲気となっています。また恋愛ADVというジャンルも感じさせません。
ストーリー内で目に付くのがところどころにある違和感、というのでしょうか、腑に落ちないような部分があったりします。
本作では主人公は二人になっています。一人目は大学生の『倉成武』、連休を利用してLeMUを訪れたものの、友人たちとはぐれ、さらには事故に巻き込まれます。二人目は記憶喪失の『少年』自分の名前も年齢も思い出せない重度の記憶障害に陥っています。気がついたらLeMUにいた彼はフロア内を彷徨していたところを事故に巻き込まれます。
主人公一人につき、ヒロインキャラは二名ですが前作以上に全キャラ攻略は必須と言える内容になっています。
武の場合は、脱出中にエレベーターの中で出会った黒づくめの少女、『小町つぐみ』。LeMUのSEである『茜ヶ崎空』の二人がヒロインキャラになります。
少年の場合、LeMU内で最初に出会ったアルバイト職員『田中優』。優の高校時代の後輩である『松永沙羅』の二人がヒロインキャラになります。また優の本名はもっと長いと言ってますが、優EDに初めて到達した時は色々混乱してしまった事は今でも思い出せます。更に沙羅は武視点では登場しない辺り、何かあると思わせてくれます。
また、以上の四名をクリアすると、天真爛漫どころか色々ぶっ飛んだ言動が印象的な『八神ココ』のシナリオが登場します。キャラ的にはどうかと思いますが、最重要です。
とりあえず初プレイは武視点を推奨します。
シナリオ別メモ
武視点の場合、やはりつぐみと空を選ぶような選択肢が多いです。
つぐみ
基本的には空と選択する場合に彼女のほうを選んでいけば問題ありません。注意点としては、3日につぐみが負傷した後、空から『話がある』と呼ばれますが、これはついていかないでください。もう一点、6日の最終局面で、ある施設に部屋に入る際、急ぎすぎないほうが良いでしょう。
空
彼女の場合、つぐみと選択する場面があった場合は空を選んでいけば基本的にはOKです。注意すべきポイントも同じです。最初はつぐみ負傷後、空についていけば非常に長い話を聞かせてくれます。次も同じで、ここでの選択はつぐみの場合逆を行ったほうがいいです。
武視点の場合、以上のこと気をつけなければ、凄惨なBADENDを何度も見る羽目になります。
少年視点も場合はどちらかを選ぶ、という場合はそれほどありません。
優
まずは発電機を修理する場面では、積極的に優につくようにしましょう。
またバーコードのようなものは角度を変えてみるのがいいでしょう。
沙羅
最初のポイントはこちらも発電機修理の場面で、当然優のときとは逆で、優につく必要はありません。沙羅シナリオの場合、何度か優を探したり、一緒に行動するような選択肢がありますが、それらの選択肢は最終的に少年と沙羅を死へ誘う罠です。優に悪意があるわけではありませんので、彼女を恨まないように・・・あと、6日目の最後の辺りですが沙羅を探すときは、上から探したほうがいいでしょう。
武視点の場合は、どちらのヒロインでも話しそのものは大きく変わりません。明らかに違うのはラストぐらいです、その一方で、少年視点の場合は、武視点と話の展開がだいぶ変わりますし、それぞれのヒロインでもかなり違っています。
ココ
先ほども述べましたが、彼女のシナリオは他のキャラを全員クリアしなくてはいけません。彼女はすべてを知っていますので、簡単には近寄れないわけです。また、どちらの視点からでも入れます。基本的には選択肢が増えたりしていますので、それらを選んでいけばいいです。基本的には何か気になるものが出てくれば、それを調べる、疑う、そういった選択をし、またココを気遣うことです。
本作は確かに傑作です。ですが、まったく傷が無いのかといえば、そうでもなく。まずは中だるみが大きいことです、これは登場人物たちの緊張感の無さがなせる業でしょうか。
もう一点は、いわゆる中弛みが大きい事です。これは地味に伏線を置いたりしていますが、やはり冗長と言わざるを得ない面もあります。
しかしこの程度はたいした傷ではありません。もし物語に興味がある方は本作をプレイしてみてください。きっとすばらしい世界が待っているかと思います。
ネタバレあり感想
ここから先は本格的にシナリオについて触れたいと思います。
本作でもっとも驚いたポイントですが・・・
まず、本格的な叙述トリックの要素を持ってきたことです。武視点の武と、少年視点の武は別人で、少年視点の少年と、武視点の少年も別人。ココシナリオでの鏡の場面は驚きを覚えずにはいられないはずです。また、武視点と少年視点では17年もの年月の開きがあります。まあこの大掛かりな仕掛けを成功させたいくつかの要素があったわけです。
・つぐみ(キュレイウイルスにより不老不死、よって17年たっても姿は変わらず)
・優(武視点の優(優美清春香菜)と少年視点の優(優美清秋香菜)は同じ遺伝子をもつ、17歳齢の離れた親子、よって区別がつかない)
・空(AIで制御された立体映像、よって姿は変わりません)
・ドイツ式の年月日表記(ドイツ語がちりばめられているのはこのため?)
こういった要素があいまって、17年の年月をごまかすという豪快な離れ業をやってのけたわけです。
もうひとつのポイントですが、本作の主人公は武でも少年(ホクト)でもなく、ブリックヴィンケル(面倒なので以下『BW』)という『視点』であることが分かります。
2017年に起きた悲劇から、回復させるべくBWは終盤にその働きを見せ付けます。武とココが冬眠に入ったことを確認し、それを優春に伝える。そして、来るべき2034年での計画を作り上げ、その実行を優春と桑古木に托す。2034年に入ると優春たちに呼び出されてLeMUにやってきたホクトにつき、その行動を操る。
まさに主人公が黒幕であるという、さらに本作ではBWとプレイヤーは記憶と感情を共有できるように計算されています。言ってしまえばBW=プレイヤー、したがってプレイヤーが黒幕だったといっても差し支えのない構成となっています。
そして仕掛け以外のポイントですが、BW=プレイヤーの目的は、ココと武を助け出すことです。武を助けると同時につぐみ、そして離れ離れになっていた二人の子、ホクトと沙羅も呼び出していたことで、家族を本来の姿に戻そうというわけです。ただ、BWや優春の意図を知らないつぐみはひたすら警戒していたわけですが。
そしてBWの目的は達成され、向かえたグランドフィナーレはそれまでの過程があってこそ感動的だったといえるでしょう。
余談ですが、Never7とのつながりについて、作中では『キュレイ』や改正クローン法(2010年改正)、モリノシゲゾウ博士といった単語が出てきています。そしてエンディングでの年表でネバー7の出来事が2019年に起こった事であると説明されています。また、それについてですが、ネバー7でいづみが語った『キュレイシンドローム』の始まりですが、これって結局キュレイウイルスで説明されてしまいますがどうなのでしょうか。
まとめ
本作はジャンルとしては恋愛ADVですが、実際にはSFミステリADVの傑作といえる物になっています。
システムとしてはノベルゲームですが、シナリオの力で引き込んで行くのは見事だと思うしかありません。
ただ中弛みと本来のジャンルである「恋愛」要素が薄いのが欠点でしょうか。