【漫画】Final Phase【感想】

7 out of 10 stars (7 / 10)

起こりうるウイルス感染の恐怖!!
都心の湾岸地区で風邪の症状だったはずの患者たちが、突如「溺れる…」の言葉を遺し死んでいった。なんらかの感染症を疑った潮浦総合病院の医師・鈴鳴涼子(すずなり りょうこ)は、検体を国立疫病研究所に送る。通称・疫研から来たのは、若いが実力のある疫学者・羽貫琉伊(はぬき るい)であった……次々と感染者が増える中、ついにヒト-ヒト感染が確認され警戒レベルはフェーズ4に!! 感染源は一体なんなのか。見えない恐怖が襲い来る。湾岸地区という閉鎖区域で発生したウイルスの猛威に人類は一体どう対処していくのか…!? 世界との距離が近くなった現代の日本に、警鐘を鳴らす本格ディザスターコミック!! 死は…ウイルスは誰かを理由があって選ぶわけじゃない。人間VSウイルスの壮絶な闘いに要注目!!

Amazonより
スポンサーリンク

DATA

  • タイトル:final phase
  • 作者:朱戸アオ
  • 刊行年:2011年
  • 巻数:全1巻
  • 出版社:PHP研究所
  • レーベル:PHPコミックス

概要

本作は東京湾岸地区を舞台に人間vsウイルスの戦いを描いた医療サスペンス漫画です。
作者の朱戸氏は医療的、科学的知識に基づいた医療サスペンス漫画を得意としている様です。
そして本作は2020年から世界で起こっているパンデミックにおける日本国内の状況を暗示するかの様な内容にもなっています。

湾岸地区の街を襲う異変

主人公「鈴鳴涼子」は東京湾岸地域の新興地である「潮浦地区」で勤務医として務める女医です。新興地区である潮浦はメディアなどがプッシュしている様子が見て取れ、バックで多くのお金が動いているのではと思ってしまいます。
また潮浦は狭いながらも高層タワーマンションで構成され人口は10万人に登る様で、人口密度はかなりの数字になりそうです。個人的には住むのには適していない街という印象ですが、メディアなどを利用したステマが功を奏しているのか、人気の居住地となっている様です。

そんな潮浦で勤務している涼子ですが、ある日同僚や潮浦居住の樽見などといった患者が診察に訪れます。涼子は彼らを風邪と診断します。
しかし数日後、同僚や樽見が呼吸困難で救急搬送されてきます。彼らの救命を試みるも適わず2人とも帰らぬ人となってしまいます。同日、同様の症状で8人が搬送され半分の4人がその日の内に亡くなってしまいます。

同僚の遺体を解剖した所、肺に体液が溜まり呼吸困難で亡くなった模様です。息子に発見される前の樽見が溺れると口にしている描写がありましたが、それももっともだと言えます。
涼子は樽見らの症状を伝染病では無いかと訴えるも上司たちはまともに取り合いません。

感染拡大

そういった中、涼子が書いた報告書を読んだ国立防疫研究所の研究者である「羽貫琉伊」が涼子の元を訪れます。羽貫家は曾祖父、祖父と大陸でハンタウイルスと縁があったそうで、その為ハンタウイルスを専門にしていたと思われる琉伊は潮浦で拡がりつつある症状をハンタウイルスによる物と推測します。
そこで涼子は琉伊の指示により、感染経路の調査に赴きますが、遺族からは訝しがられてしまいます。さらに樽見家を訪れた際、息子の「樽見潤」と共に隣人が発症しているのを発見し、調査は中断したかと思われました。
しかし潤が独断で調査を継続しており、その結果潮浦における感染源が判明します。この感染源については作中冒頭付近に伏線が張られていて説得力が感じられました。
こういった経緯から、潤は琉伊の助手を名乗り調査などで関わって行きます。これは自分の父親が犠牲になっている事が影響しているのかも知れません。

封鎖された潮浦

しかしそれから間もなく、ヒト-ヒトと見られる感染が確認され事態は悪化していきます。患者は急速に増え、診察待ちの行列は間隔を開けるよう指示され、医療従事者は防護服着用、容態が深刻で無い患者は自宅療養をなどと現在現実で起こっているのと同様な光景が展開されます。
そうしている間に潮浦は全面封鎖の憂き目に遭ってしまいます。これは現時点まで日本では適用されてこなかったロックダウンに相当すると思われ、潮浦から泳いで脱出しようとした人物が逮捕されるという描写がされています。これを見るとまだ現実の日本は緩いのだなと思ってしまいます。実際の所、日本では法的にロックダウンは困難な様ですが。
しかし潮浦の状況はそれ相応に深刻な状況となっています。医療機関に患者は入り切らず、遺体収容所も同様です。ただ感染はしているが重篤では無いので自宅療養というのは現実と同じ点と言えます。
そうしてハンタウイルスとの戦いに光明が見えてきた頃、ある事態が起きます。

まとめ

本作はハンタウイルスという実在するウイルスを扱った医療漫画です。
東京湾岸地域にある潮浦という総規模な地域が舞台にハンタウイルスが猛威を奮います。そのうち肺に症状が出る「ハンタウイルス肺症候群」は調べた所、致死率約50%とかなり凶悪と言えます。
ハンタウイルスについては巻末にも記載されています。
涼子たち医療従事者の命がけの努力や感染に怯える潮浦住民たちの様子は現在起きている現実に近いことに辟易してしまいます。
作中にもありますが、肺に症状を及ぼすハンタウイルスは効果的な治療法は無く、対処療法となります。これは現在世界に蔓延している新型コロナと同様といった事もあり、感染を防ぐ為に列の間隔を開けるのは今言われているソーシャルディスタンスに当たりますし、色々と現在の状況と合致する所はあります。
しかし現在人類社会が、ウイルスとの先の見えない戦いにある状況、フィクションくらいは先んじて人類に軍配を上げても良いのだろうと思います。