【漫画】廃墟少女【感想】

7 out of 10 stars (7 / 10)
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DATA

  • タイトル:廃墟少女
  • 作者: 尚月地
  • 刊行年:2013年
  • 巻数:全1巻
  • 出版社:講談社
  • レーベル:KCx ARIA

寂れた工場跡……。少女を拘束する少女……。命懸けの探しもの……。よみがえる記憶の断片……。繋がる迷路の先に見えた驚愕の事実とは……!?[廃墟][こわれゆくもの]をモチーフにした、稀代のヴィジュアリストによる超幻想オムニバス4編。

Amazonより抜粋

概要

本作はイラストレーターとしても活動している作者によるオムニバス作品で、少女マンガ誌「ARIA」にて2010年から2012年に掛けて不定期に掲載された「廃墟迷宮シリーズ」と呼ばれる一連の作品をコミックス化したものとなっています。

廃墟をモチーフにしたオムニバス作品

本作はタイトルから直球な表題作『廃墟少女』を始めとして、廃墟をモチーフにした作品4編が収録されています。
ただ本作のジャンルはファンタジーと言え、廃墟と言っても実在する様な廃墟やリアリティーのある廃墟を期待して読むと肩透かしを食らった様に感じられるかも知れません。
また廃墟が話に登場する割合も作品によりバラツキがある印象を受けました。

各話感想

廃墟少女

表題作である本エピソードは主人公である少女が親友によって、かつて男性に監禁されたという廃墟に、再度監禁される場面から始まります。
冒頭でアグレッシブな手段で気絶させられ監禁されてしまう主人公ですが、彼女もクラスメートの机を蹴飛ばしたりと大概な感じだったりします。
主人公は事件のショックからか、監禁された当時の記憶を失くしてしまっているのですが、ある理由からその記憶を思い出して欲しい親友は、当時と同じ場所に再度監禁する事で記憶を呼び起こさせようという荒治療にも程があると言いたくなる強引な方法に出た様です。
ある理由から3日という期限がある中、主人公は廃墟内の光景から朧げに思い出した不穏な記憶を辿って行き、真相を思い出します。
ただそれよりも病弱ながら狂気じみた表情を見せたりする親友のキャラクターが印象に残るエピソードです。

音楽が見える男

主人公は音楽学校で教師を務めるなど、長年音楽に携わってきた男性です。
ある事件から長い間鬱屈した思いを抱えてきたまま務めていましたが、数日前の出来事をきっかけに音が事象として視覚化される様になってしまいます。
しかも厄介な事に単に視覚化されるのみならず、音に衝撃なども感覚として感じてしまう様です。本人は衝撃を感じて倒れたりしているのに、傍目からは訳もなく倒れている様に見えてしまうなどといった有様で、控えめに言っても白昼夢の様な様相と言えます。
こんな事では音楽学校の授業を行うのは困難となり、追い詰められた主人公はきっかけとなった人物が寝床にしているという廃墟へ向かいます。
そこから主人公が自分の音と向き合っていくというのが本エピソードのテーマと言えそうです。
また登場人物や建物がファンタジー風な装いなのに名前は日本風なのが印象的なエピソードでした。

箪笥少女

ある日主人公の青年は1人の少女に話しかけられます。
どうやら少女は1週間前に亡くなった、医者である双子の兄に診てもらっていた患者の様で、その兄であると思いこんで話しかけてきた様です。
なんでも少女は幻覚をみる病気に悩まされていて、主人公の兄は無償で診察をしていたのだとか。そこで兄は少女とただならぬ関係にあったのでは無いかと考え、少女が姉と住んでいる廃墟まで案内されます。たださすがに女性2人が廃墟で住んでいるのはどうかと思ってしまいますが。
そして少女の診察を装った交流を経て、主人公は兄が行っていた事やその死に様の真相を知ることになります。ただそれを知った後の主人公の行動については賛否分かれそうな所ではあります。個人的には主人公がそういった行動を取る必要はあったのかという点で疑問を感じてしまいます。

帽子の上の丘

本エピソードは他と違っていわゆるファンタジーな中世ヨーロッパ風世界観での話となっています。ただ他のエピソードも雰囲気は似ている為、それほど違和感は感じません。
舞台となっているのは帽子大国とされているある王国で、ゆりかごから墓場までといった具合に帽子が国民の生活に根付いていて、それに応じて帽子職人は一部を除いて人気の職業となっている模様です。
主人公はそんな帽子職人の中でも売れっ子となっていて、貴族相手に派手だったり奇抜な帽子を作っては多額の報酬を受け取るという仕事をしていました。いわゆる職人気質とはほど遠いという印象です。
そんな時国王からの依頼を受けられるという事で、弟子と共に喜び勇んで王宮へ向かいますが道に迷った上に、入ると出られないという曰く付きの廃墟へ迷い込みます。
しかし廃墟に住まう者との交流を通して自らの帽子制作における原点を取り戻していきます。自らの原点に立ち返っていくという点では『音楽が見える男』に近いという印象を受けました。

まとめ

先述した様に本作は廃墟要素は薄めとなっていて、リアリティよりも背景としての美しさが優先されて描かれている様に感じられます。
しかし表紙を始めとして画風、画力は目を瞠る物があり、そこから描かれる廃墟も幻想的な物となっています。そういった絵柄や雰囲気などからも本作はファンタジー作品であると言え、そういったジャンルが好きな方は読んでみて損は無いでしょう。
個人的には表題作である『廃墟少女』が最も楽しめ、廃墟ものという風に感じられました。