【2022年冬アニメ】平家物語【感想】

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DATA

  • タイトル:平家物語
  • 放送クール:2022年冬
  • 話数:11話
  • 制作:サイエンスSARU
  • 監督:山田尚子
  • 脚本:吉田玲子
8.5 out of 10 stars (8.5 / 10)

概要

本作はタイトル通り歴史的な古典である『平家物語』をアニメ化した物です。
作家の古川日出男氏による現代語訳版を下敷きとしています。
2022年冬アニメとして放送されましたが、フジテレビオンデマンドでは2021年9月より先行配信されていました。

歴史的古典のアニメ化

原作である平家物語は『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり』という有名な一節から始まる物語で平安時代末期に政権を握り権勢を振るい『平家にあらずんば人にあらず』と言われるほどの栄華を誇った「平 清盛」を中心とする平家が「源頼朝」を中心とする源氏の軍勢に敗れて没落し、滅亡するまでを描いています。通して読んだという方は多くないかも知れませんが、『敦盛の最後』『扇の的』などといった古文の教科書に掲載されているエピソードもありますし、平家の滅亡という歴史的事実そのものは義務教育で習うため知らない方はあまりいないのでは無いかと思われます。
そんな古典がアニメとしてどの様に描かれたのでしょうか。

琵琶弾きの少女を通して描く平家の物語

本作の物語は一組の父娘が京の町中を歩いている場面から始まります。その娘は平家の密偵である禿が跋扈し、平家に対する不平不満などが弾圧されている様子を見てひどいという感想が口を出ます。
しかしそれすらも禿に聞きとがめられてしまい、琵琶法師である父親は平家の武士によって開幕早々斬殺されてしまいます。なかなかに重く、平家の悪しき面を見せつけているといった雰囲気を感じる出だしと言えそうです。
その後ある晩に、少女は清盛の嫡男である「平 重盛」の館に現れ、平家はじきに滅びると告げます。重盛は出家した清盛に代わって平氏の棟梁となっていましたが、一門の行く末を案じている所に現れた少女に衝撃を受けた様でした。また本作では重盛はオッドアイとなっていて異なる色の目だと亡者が見えるという設定になっています。その為同じくオッドアイで未来が見えるという少女のいう事を受け止める事が出来たのだと思われます。そして自らの目で少女の父親が平家の武士によって殺されたという事を知った事もあり、「びわ」と名乗る少女を引き取る事にします。
このアニメオリジナルの登場人物である琵琶弾きの少女びわが本作の主人公となっています。未来が見え、平家の滅亡を知っている人物が主人公というのは、平家の末路は多くの人が知っている事を踏まえて視聴者に近い人物という事で設定された物と思われます。

平家の側から見る

重盛に引き取られたびわは男装して主に重盛の息子たちの遊び相手をして過ごす事になり、繊細な貴公子と雰囲気の長男「維盛」、お調子者な次男「資盛」、陽気な三男「清経」といった兄弟や重盛の妹に当たる「徳子」といった面々と日々を過ごす事になります。その中でもびわは徳子に懐き彼女の元に足繁く通う様子が描かれています。
そんな平家の側にいる立場から殿下乗合事件や厳島神社造営といった事件や出来事を見る事となります。
しかしそれと並行して平氏の棟梁として朝廷に対し忠勤するも、出家しても多くの権力を握り朝廷も意のままにしようとする父清盛との板挟みに苦慮する重盛の様子が描かれます。そんな重盛は中盤に差し掛かる前に平家の行く末に絶望的な気持ちを抱いた様子で逝去します。本作では重盛を看取ったのはびわのみであり、彼女は重盛の亡者が見える目を継承します。その一方、重盛と入れ替わる様にびわは重盛の弟である「重衡」「知盛」、甥に当たる「敦盛」らと顔見知りとなります。特に最期が知られている敦盛は無邪気な印象を受け、笛の名手である清経と意気投合している様子が見て取れます。
ただ朝廷に君臨している「後白河法皇」に信頼されていた重盛の早すぎる死により、強引な清盛を抑止出来る者がいなくなり、平家と朝廷の仲は悪化し暗雲が立ちこめてきます。ただ治承三年の政変、徳子と高倉天皇の子が天皇として即位、福原京造営など表面的には平家はさらなる繁栄へ進んでいる様に見えていたのかとも感じられます。

没落と滅亡

重盛亡き後、弟の宗盛が平氏の棟梁となりますが、彼は凡愚な人物として描かれ、朝廷内で源氏の長とされていた源頼政の子仲綱を侮辱し、頼政親子が後白河法皇の皇子「以仁王」と結託し挙兵に至らしめたとされるなど重盛とは雲泥の差である事が分かるようになっています。
この頃から平家に対する不満が挙兵という形で表面化し始めますが、その中にはかつて清盛に助命された「源 頼朝」の挙兵もありました。本作では妻「北条 政子」の尻に敷かれている様に見え頼り無さそうな印象を受ける頼朝ですが、彼が表舞台に登場した事で本格的に歴史が動きだした感があります。
一方清盛は一度は助けた頼朝の挙兵に激怒し、維盛を総大将とした討伐軍を送るも富士川にて水鳥の羽音によって全軍が戦わずに逃走してしまいます。この富士川の戦い自体有名な場面な上、序盤に維盛が鳥に驚かされる場面が伏線として貼られている為、維盛の敗戦は避けられない事は分かっています。しかし頼朝軍が予想以上の大軍であった事も描写されていますので、平家軍の動揺も仕方無かったのでは無いかと思われます。とは言え、全軍が戦わずに逃走してしまった事を清盛より叱責された維盛は精神的に追い詰められていっている様に見えます。
更に平家に対する反乱が相次ぐ中、平家の屋台骨である清盛が熱病で逝去します。この辺りは良くイメージされる通りの壮絶な最期と言えます。
そして清盛亡き後宗盛で政権を維持するのは困難であると言え、酒宴を行うばかりとなっています。その上維盛を信濃の源義仲討伐に向かわせた所倶利伽羅峠で大軍を失う事となり、都落ちする事になります。
平家が去った後の都を掌握したのは義仲ですが、彼らは元々野武士を通り越して山賊思わせる出で立ちで描かれ、都に入ると略奪暴行が横行する有様となります。
そんな中びわは1人母親を探して情報を旅に出ますが、こちらも簡単にいかず何度も行き違う事になります。ある白拍子たちと旅した後に母親と再会を果たしたびわはその言葉から平家の事を語り継ぐ事にし、その為にも平家の最期を見届ける事にするのでした。
平家物語は元々琵琶法師によって語り継がれていた物で、『耳なし芳一』の様に平家物語を語り弾く琵琶法師が題材となった怪談も存在しています。本作ではその理由について滅び行く一族に対する祈りの為語り継ぐとしている様です。少し前まで未来が見えるだけで何も出来ないと嘆いていたびわですが、母親との対話を通して、自分がすべき事に思い至った様です。そうして確たる意思をもって壇ノ浦へ向かって行きます。
一方平家は都落ちの後、転がり落ちる様に没落して行きます。特に太宰府を追われて、安徳天皇を背負った徳子ら女性も含めて雨が降りしきる中ぬかるみを歩いて行く様子はその象徴的な場面と言えそうです。
更にその後は「源 義経」を先頭とする頼朝軍に追われつつ交戦し重盛の息子たちや敦盛らが次々と脱落して行きます。
それからびわが合流した後の最終話、ついに壇ノ浦の戦いとなり、その激戦と最期が余すことなく描かれています。
その戦場を最後に描いたのがびわの視界を通しての物と思われ、何が起きたのか何となく察せられる様な描写になっているのは印象的です。

作画、雰囲気

本作の作画、人物に関しては特徴的な物になっていますが、個人的にはまんが日本昔ばなしとかでもありそうなタッチという印象で、本作の題材にマッチしていると感じられました。
特に源義仲などはそれっぽく描かれていたのではと思いました。
そういった作画ですが、合戦の場面は当然多く戦死者も多数描かれています。ただ斬首の場面は一切無く、首から落ちる椿の落花で代用されているのがかなり印象に残ります。
演出面でもっとも良いと感じられたのが、各話でもっとも見所と見られる場面がびわによる語り弾きで描写されている点で、殿下乗合事件に始まり、橋合戦、富士川の戦い、倶利伽羅峠の戦い、敦盛の最期、壇ノ浦の戦いなどで行われています。これは声優の実力があってこその演出であると言えるかも知れません。

まとめ

本作は古典を原作としながらも、アニオリキャラを主人公にするという一見大胆と思わせる事をしています。
しかしある程度一貫した視点が必要であったのではと言うことや、平家について語り継ぐというテーマと役目の意味からある意味必然であったのではとも思われます。
そして平家と一緒に過ごす主人公を通して見ることで視聴者も平家側に感情移入しやすく、滅亡がよる劇的に感じられるでしょう。
ただ壇ノ浦後の描写やある人物の生存説が採り入れられている様な場面も見受けられたりといくらかの救いがある様に感じられました。