目次
DATE
- タイトル:ヘウレーカ
- 作者:岩明均
- 刊行年:2002年
- 巻数:全1巻
- 出版社:白泉社
- レーベル:ジェッツコミックス

紀元前二百余年、天才数学者が超大国・ローマ軍を震撼させた巨大軍事プロジェクトとは!? 古代シチリアを舞台に、一大歴史ロマンが幕あける──!
Amazonより抜粋
概要
本作は『寄生獣』や『ヒストリエ』で知られる岩明均氏が隔月刊誌『ヤングアニマル増刊Arasi』にて2001年4月から2002年2月にかけて連載した作品です。
岩明均が描く第二次ポエニ戦争
本作の冒頭では紀元前に共和政ローマとカルタゴの間で勃発した第二次ポエニ戦争における一つのハイライト、カンナエの戦いが描かれています。制式装備で統一し整然とした印象のローマ軍とガラが悪く雑然とした印象の外国人部隊で構成されたカルタゴ軍といういかにも対照的といった両軍が激突します。そんな戦闘ではその激しさ故か人体破損描写が目に付くのは、岩明氏だからでしょうか。
戦いそのものはカルタゴの名将ハンニバルによる騎兵を活用した包囲戦術によってカルタゴ軍の大勝となります。このハンニバルの戦術は後世に於いても包囲殲滅戦の手本とされている事でも知られています。
そして勝利後ハンニバルはローマへの圧力を強める為、ローマと同盟している都市の1つであるシチリア島シラクサ市への調略を開始するというのが本作の導入部分となっています。
シラクサに住む青年
そして舞台はシラクサに移り、スパルタ出身ながらシラクサに住んでいる主人公の青年「ダミッポス」が恋人である「クラウディア」と市の一角に塔でデートしている場面が描かれます。それは平和な光景ですが、そんな状態は長く続かず、ハンニバルによって扇動された「エピキュデス」らカルタゴ派がクーデターによって市内を掌握し、カルタゴに付く事を宣言します。
そしてローマ出身者の市民は逮捕され市外の何処かへ連行されている模様です。クラウディアもローマ出身ですが、偶々デート中で自宅に居なかった為難を逃れた様です。しかしこのままでは見つかって逮捕されてしまうという事から、縁があり高名な数学者である「アルキメデス」の屋敷に2人で匿って貰う事になります。
一方のローマ側もこの状況を放置出来るはずも無く、将軍「マルケルス」率いる軍勢が派遣され、『シラクサ包囲戦』の火蓋が切って落とされます。
果たしてシラクサ市はどうなるのか、そしてダミッポスとクラウディアの運命や如何にといった所でしょうか。
歴史と主人公
言うまでもありませんが、本作のストーリーは歴史上の第二次ポエニ戦争とその中での1戦闘であるシラクサ包囲戦がベースとなっています。ポエニ戦争の結果は歴史の授業で習いますし、それを踏まえればシラクサ市がどうなるか察しが付きます。
ただ本作は史実のみならず、伝承とされる物もふんだんに盛り込まれていて、アルキメデスが製作したとされる防衛用の機械群がそれに当たります。侵攻してきたローマ軍艦隊の軍艦に落石や巨大な丸鋸の様な機械で破壊したり、『アルキメデスの鉤爪』と呼ばれる機械で破壊や転覆させて行きます。城壁へ登ったローマ兵を次々と両断していったりといった具合に損耗を強いて行きます。この辺りは脚色されていそうとも感じられますが、痛快に感じられ楽しめます。その中でも中盤に登場する『エウリュアロスの車輪』と呼ばれる投石機の威力は圧巻と言えます。
しかしそれらの機械を製作したアルキメデスは頑固ながらも学問一筋の人物として描かれ、街を守る為とは言え兵器を製作した事を気に病んでいる様子が見て取れます。ただこういった防衛用の兵器が無ければ一方的に蹂躪されるだけという可能性もある為、難しい所と言えそうです。
また寄生獣の主人公泉新一を思わせる風貌をした、本作の主人公であるダミッポスは意外にも史実の人物だそうです。もっとも史実上ではある一つの役割だけを果たした事しか残っていない様で、スパルタ教育やスリーハンドレッドなど勇猛なイメージで知られているスパルタ出身とは思えない様な口達者な優男だとかアルキメデス邸に滞在している間ずっと弟子だと勘違いされていたとか、そもそもアルキメデス邸に滞在していたのかといった細部は作者の創作と思われます。
そんな歴史上では一瞬しか登場しない様な人物に焦点を当て、史実より多くの役割を持たせたのが本作の大まかな展開と言え、従って大筋としては歴史通りに進んでいく事になります。
まとめ
本作はシラクサ包囲戦という史実を扱っており、創作を混じえつつも大筋としては史実通りに収まる展開となっています。
それなりの人体損壊描写を含みながらも派手な攻城戦などに歴史の壮大さを感じたりしますが、主要な登場人物がひとり残らず報われない結末を迎えている点などは戦争の無情さも感じざるを得ないと言えるでしょう。