
「ルーム(この密室)」からは、生きて出られない。 閉鎖空間に囚われた男女の運命は!? 新鋭が描く極限の脱出サスペンス!! 心に闇を抱えた人間の、無意識下の妄想が具現化した閉鎖空間「ルーム」。出口はなく、怪物が徘徊する「ルーム」から脱出するための方法は2通りある。怪物を殺すか、無意識に「ルーム」を生み出した“妄想の主”を殺すか──。牢獄のような「ルーム」に囚われた男女に、具現化した“主”の妄想が牙を剥く!
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目次
DATA
- タイトル:in the Room
- 作者:安田剛助
- 刊行年:2014年
- 巻数:全1巻
- 出版社:集英社
- レーベル:ヤングジャンプコミックス
概要
本作はウルトラジャンプにて2013年から2014年に掛けて短期集中連載された作品です。
謎の閉鎖空間に引きずり込まれた人々
冒頭、高校生の「結城結平」はオンラインゲーム『the Room』で遊んでいました。
彼は受験生にも関わらずゲームのトップランカーという、いわゆるネトゲ廃人です。ただスマホゲーやソシャゲが幅を利かせている昨今、こういったPCネトゲユーザーは少数派になっていそうです。
結平は受験生にも関わらずネトゲ廃人となってしまっている己の将来を悲観しつつも、異常事態になってこそ実力を発揮出来る筈などと現実逃避していた傍から異常事態に巻き込まれます。現実逃避しながらベッドで横になっていた彼は気付けば見知らぬ場所にいました。
古びた刑務所の様な空間の一室にいたのは結平だけでは無く、女子高生の「愛山渓あい」、警官の「桜田 正義」、「鈴木 薇発」と弁護士「鈴木 螺旋巻」の兄弟らに結平を含めて計7人でした。
彼らは突然この空間に放り込まれた様で、例えばヒロイン枠であるあいは結平と同じく就寝中だった様で無防備な格好となってしまってます。
クリーチャー
外から叫び声が聞こえたと他の人物がいる事を仄めかす様な発言があったりしますが、周囲の探索を行っていた正義が危険だから逃げろと言いながら駆け込んできて間もなく、室内が変容します。
室内の壁一面が口らしき物で埋め尽くされ、部屋の中央には異形のクリーチャー。言うまでもなく一同は逃げ出しますが、その弾みで突き飛ばされたあいがクリーチャーの前で転んでしまいます。
このままではあいは助からないと一同が諦めかけた時、結平は今こそ本領発揮する時とクリーチャーとあいの間に割って入ります。
突如送り込まれたホラーゲームの様な空間、いかにもホラーゲームなクリーチャー、ヒロインの危機。オンラインゲームのトッププレイヤーで非日常を待ち望んでいた結平には、このシチュエーションが自分の為にお膳立てされた物に思われたのかも知れません。ゲームの主人公と同じ様にクリーチャーを倒せるのだと。
しかし実際はそんな事は無く、クリーチャーに襲われた結平は痛みで泣き叫びながら無残にも絶命します。
他の人物はあいを連れて室外へ抜け出したので、結平は文字通り命懸けであいを守ったと言えます。
『Room』経験者、そして内輪もめ
クリーチャーの部屋から脱出し、別の部屋へ逃げ延びた一同の前に大学生の「切子 切佐木」が現れます。ナチュラルに刃物持っていて明らかに一般的な大学生では無さそうな彼はこの空間に詳しそうですが、薇発を刺して逃亡します。正義が言うには連続通り魔の疑いが掛かっているという危険人物です。
兄を刺された螺旋巻は切佐木を追って確保します。
そして切佐木は彼が『Room』と呼んでいる空間について説明します。曰くこの空間は放り込まれた人物のうち、誰かの心象風景が形となった物。脱出するにはボスクリーチャーを仕留めるか発生源である人物が死ななければならない。ちなみに彼はRoomに何度か飛ばされた事があるそうです。
切佐木は螺旋巻に対して、室内にいた人物が思ったより多かったと言ってましたので、自分以外を皆殺しにして脱出する腹積もりだったのかも知れません。
そこから生き残ったメンバーそれぞれの思わくや欲望によって殺しあって人数を減らして行きます。中盤まではクリーチャーに襲われて死んだのは結平だけで、それ以外は人間同士で勝手に殺し合った訳で、内輪もめしてる場合で無いとあいが嘆くのも当然と言えますし、読者も期待外れでガッカリと言えます。
雑なサスペンス要素
螺旋巻は切佐木からRoomは誰かの心象風景であると聞かされた時、心当たりがあったようです。
今回Roomに引きずり込まれた面々は、兄薇発の妻が殺害された時、現場である薇発宅周辺で目撃されていたのです。身重であった薇発の妻が自宅で滅多刺しにされ、薇発がその容疑で逮捕されています。
止せば良いのに、本作はクリーチャーとの戦いよりも薇発の妻殺害事件の真相に比重が置かれています。薇発は恐らく逮捕直後から真犯人を確信していた様ですが、その根拠が伏線という形としても読者に提示されてない為、非常に唐突な印象を受けます。
最終盤、絶望的な状況のなか雑な形で真犯人が明らかにされ、その真犯人によりRoomは破壊されます。
まとめ
本作はホラーにサスペンス要素を盛り込んだ物になっていますが、中途半端な印象を受ける物になっています。
結平がクリーチャーに殺されたのがピークと言え、その後は人間同士で勝手に殺し合ってから終盤になってようやくクリーチャーとの対決となっています。
登場人物が理不尽な死に様を迎えるのもある意味ホラーの特徴と言えなくもありませんが、謎の異空間に引きずり込まれ、その理由と関係の無い死に様を迎えるのは理不尽にも程があるのでは無いかと思ってしまいます。
しかしRoomの雰囲気やサイレントヒルシリーズを思わせるクリーチャーなどはホラーとしては好印象を受けますし、ラストなどは如何にもホラー的な不条理な展開と言えます。
その為内輪もめやサスペンス要素に比重を置かなければだいぶ印象が変わったのでは無いかと思われます。