目次
DATA
- 刊行年:2004年
- 著者:乾 くるみ
- 出版社:原書房
- レーベル:ミステリー・リーグ

大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって…。
Amazonより抜粋
概要
本作は刊行された当時『二回読んでください』という帯が話題になった恋愛小説です。
しかし作中の仕掛けや作者である乾氏がミステリ中心の作家である事から、広い意味でのミステリとみなされたりしています。
そういった事もあってか、刊行翌年の2005年に第58回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門候補作にノミネートされています。
また2015年には実写映画化されています。
粗筋
本作の粗筋は以下の通りです。
バブル時代の昭和の舞台に「たっくん」と呼ばれる主人公とヒロイン「マユ」の恋愛を描いた恋愛小説として描かれています。
A面
大学生のたっくんは友人に誘われた合コンでマユと出会い、やがて付き合うようになります。
いかにもといった微笑ましい様な描写が多い恋愛小説といった印象です。
B面
社会人になったたっくんはマユと遠距離恋愛をしていましたが、あるとき同期の同僚「美弥子」に誘われて二股をかけます。
しかしそんなことが続くわけもなく、些細なことで二股がばれ、修羅場となりマユと別れます。
ストーリーについて
粗筋としては上記の通りです。
話としてはA面を読むと普通の恋愛物という印象を受けるかも知れません。
しかしB面になると雰囲気が変わりギスギスした物になります。A面とは趣が異なるため戸惑う方もいるかも知れませんし、こういったギスギスした物が苦手な方もいるかも知れません。
そのうえあまりストーリーについて述べるとネタバレになりかねません。
ミステリーと呼ばれる事がある本作ですが、殺人や事件どころか、登場人物が推理や謎解きする場面もありません。
もっとも主人公にしてみれば二股がばれたのは事件かも知れませんが、謎を伴わない単なる痴情のもつれなので、ここでは置いておきます。
そういった意味では当時としては新機軸と言えますが、こんなものがそう出てくるとは思えません。そう考えると貴重な作品と言えますが、なぜミステリーに分類されるのかという点については、最後まで読めば多分お分かり頂けると思います。
まとめ
本作をミステリーと読むか、恋愛、もしくは青春物として読むかは読者自身にかかっているといっても良いでしょう。ミステリーには大小に関わらず『仕掛け』が必要です。そもそも本作のような展開で仕掛けられるものといえば自ずと限られてきます。
そのため個人的にはA面の3章辺りで主な仕掛けが読めてしまったため、2回読む必要は無いとの判断でしたが、2回読む事で伏線が分かりますし決して無駄とは言えません。
ただいかにも仕掛けがありますと言わんばかりの宣伝によって、読者が最初からそういった作品であるというフィルターを掛けて読んだ結果、少し惜しい印象を受ける作品になったのでは無いかと思われます。
個人的にも刊行間もない頃に評判を知って購入した覚えがありますので、宣伝としては効果的だったのでしょうが、作品の意外性が薄れてしまったのがやや残念で塩梅が難しい所と言えそうです。