【2022年秋アニメ】「艦これ」いつかあの海で【感想】

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DATA

  • タイトル:「艦これ」いつかあの海で
  • 放送クール:2022年秋
  • 話数:8話
  • 制作:ENGI
  • 監督:三浦和也
  • 脚本:田中謙介
5.5 out of 10 stars (5.5 / 10)

概要

本作はソーシャルゲーム『艦隊これくしょん』(以下艦これ)を原作としたTVアニメです。艦これアニメとしては劇場版も含めて3作目ですが、制作会社を一新している事もあってか過去作の直接的な続編とはされていません。
軍艦を擬人化した存在である『艦娘』が『深海棲艦』と呼ばれる敵と戦うという原作同様の内容は過去作と同じとなっています。
また史実の時系列としては『レイテ沖海戦(スリガオ海峡海戦)』から描かれるストーリーとなっていて、駆逐艦「時雨」が主人公となっています。
放送についてですが、元々22年秋アニメとして放映されましたが、作画修正などで再三の延期を経て、終盤の3話は月1の放送となって23年3月までの放送となっています。

大戦末期をベースにした作品

主人公時雨が軽空母「龍鳳」を護衛するも、敵機の接近を許してしまうという場面が描かれた冒頭の後、場面は南方の泊地へ移ります。
そこで新たな作戦のため部隊再編が発表され、時雨は第一遊撃部隊第三部隊(以下1YB3H)に配属となります。
この部隊は戦艦「山城」を旗艦として、戦艦「扶桑」、重巡洋艦「最上」、駆逐艦「満潮」「朝雲」「山雲」らが配属されていますが、レイテ沖海戦に先立って急遽寄せ集められた艦隊で、史実におけるスリガオ海峡海戦での壮絶な末路も含めて艦これをきっかけに知った方も多いのでは無いかと思われます。
旗艦である山城は艦隊が寄せ集めの囮部隊であると悲観的になっている事もあってか、高圧的な態度を取ってしまい険悪な雰囲気となりますが、時雨の提案でいったん落ち着く事になります。

スリガオ海峡海戦

その後全ての艦隊が各自のルートでレイテ湾を目指す事になり、1YB3Hはスリガオ海峡を目指します。その前後に第二遊撃部隊(2YB)の重巡洋艦「那智」「足柄」の様子が映されたりします。
このスリガオ海峡突入辺りの序盤は、1YB3Hは時雨以外全滅しているという史実を踏まえているためか劇場版以上にシリアスな雰囲気が感じられます。
その前後に最上の艦載機が後続する2YBと接触しており、これが2YBのスリガオ海峡突入を早めた様です。
1YB3Hは扶桑が中破するなど損害を受けながらも進撃するも史実動揺多数の敵に阻まれます。登場する深海棲艦の中でも「PT魚雷艇」は鳴き声などもあって不気味な印象を受ける姿となっています。
そんな中2YBが到着して一時的に戦況は盛り返します。史実ではスリガオ海峡突入に時間差があり各個撃破されてしまった両艦隊ですが、本作では本来の予定通り共同で戦えたという事になります。
しかし海峡の奥に控える「海峡棲姫」の圧倒的火力によって両艦隊は追い詰められて行きます。絶体絶命かと思われた時、戦艦「大和」ら他の艦隊も援軍として現れます。
どうやら各自それぞれのルートを通って海峡まで到達したようですが、最上の事前に偵察機を飛ばした際には本来の目的地であるレイテ湾には結構な敵戦力があったはずで、それを放置して海峡へやって来たという事になりご都合主義な展開という風に感じられなくもありません。この辺りは後からでも視聴者が納得出来る説明が欲しかったと言えます。
そういった激戦の末に時雨や山城によって海峡棲姫を撃破しますがその代償は大きく、1YB3Hは生還こそしたものの時雨と最上を除いて退役となり、鎮守府全体でも多くの戦力が失われた様です。
おそらくこの損害は概ね史実に準じていて、それを乗り越えてレイテ後も戦力として残ったのは最上くらいでは無いかと思われます。

雰囲気、作画など

先述した様に、本作は大戦末期をベースとしています。そのため前作の主要キャラなど多くの艦娘がこれまでの戦いで失われたそうで、登場する艦娘は比較的新型の駆逐艦が主となっています。
そういった事もあってか全体的に雰囲気は重めという風に感じられますが、これは本作主人公の時雨が基本的に穏やかで物静かな性格なために重い雰囲気が助長されている面があるかも知れません。また時雨のその性格もあるのかも知れませんが、日常場面では時折微妙な間が空くこともあり、全8話という尺すら持て余している様に見えなくもありませんが、これは制作側が艤装などを描かないと行けない海戦シーンに掛ける尺を短くしようとしたからでは無いかという穿った見方をする事も出来ます。
また中盤からは駆逐艦「雪風」がコミカル担当といった役回りを担いますが、それはそれでいる時といない時の温度差が結構な物になっていますし、そもそも原作ゲームと比べて若干キャラ崩壊している気がしなくもありません。
そして作画についてですが、最終的に最大の盛り上がり所であった海峡棲姫との激戦を描いた3話で作画が乱れてしまい、以降は修正のため放送が中断され、大きく遅れてしまう事となります。
そういった事もあり、その後作画はしっかりした物になりますが、最大の盛り上がり所で不安定になってしまった事に加え、2度の中断と放送スケジュール調整の結果最終的に月1の放送となってしまい、視聴者がストーリーや視聴を忘れてしまうなどといったケースもあったものと思われ、結果的には持ち直したものの、そのための損失も小さく無かったものと考えられます。

束の間の休息と転属、そして決戦

スリガオ海峡海戦後の療養を終えた時雨は扶桑型姉妹の退役を見送った後、提督の勧めで小旅行に出かけます。旅先の旅館で何故かいた雪風と相部屋になり、2人は一緒に旅行を楽しみます。
この下りは明言されていませんが、歴戦の駆逐艦である2人の親睦を深めて貰おうと提督が企図したものかも知れません。『呉の雪風、佐世保の時雨』と並び称される歴戦の2人はこの後度々連携プレイを見せる事となります。
そして旅行から戻った時雨は雪風と同じ、軽巡洋艦「矢矧」率いる第二水雷戦隊(以下二水戦)に配属されます。ただ史実の時雨はレイテ沖海戦前も二水戦に配属されていた様ですが、本作では雪風との面識が浅い様に見受けられるため、史実と同様なのかは不明です。
また戦局は南西諸島を巡る攻防が行われているという予断を許さない状況となっており、史実に準じていているとは言えフィリピンから取り繕えない程に前線が後退してしまっています。やはりレイテ湾より海峡棲姫に注力した事が影響しているのでしょうか。
そして南西諸島に敵の大部隊が迫る中、艦娘たちは鼠輸送で物質をかき集め、二水戦が敵の後方部隊に打撃を与えるなどして決戦の準備を進めて行きます。その中で最上が航空巡洋艦に改装され、時雨も改三に改装されています。そんな準備が進められる中、南西諸島付近の海域が赤色化しつつあると報告されます。突然劇場版のみの設定突っ込まれても知らない視聴者は戸惑ってしまいそうです。
そうして大和を中心とする艦隊が南西諸島へ向かい、龍鳳ら機動部隊を含めた艦隊は史実で大和が沈んだ坊ノ岬沖付近で敵機動部隊を引き付けます。この部隊は旧式なはずの軽空母「鳳翔」まで投入するも艦載機の数では圧倒されてしまっています。
一方南西諸島に向けて南進する大和と最上を合わせた二水戦に敵の大部隊が襲い掛かります。史実と比べると大きく戦力は投入出来ている状況でありながら敵戦力の前に絶望的な戦況で時雨たちは追い詰められて行きます。途中予想外の援軍が現れるも劣勢を覆すには至らず結末となります。

まとめ

何とも言い難い微妙な味わいの作品と感じました。作画は良いですが放送スケジュールを犠牲にしていて手放しで褒められるものではありませんし、日常シーンを間延びさせ、スリガオ海峡海戦以降の海戦シーンは駆け足かダイジェストといった風に色々チグハグな印象を受けます。この辺りは制作会社のキャパ不足と言われても仕方ないでしょう。
また制作原作側が伝えたいメッセージ的な物はラストで分からない事も無いのですが、余韻冷ます様な現代転生的な描写は必要だったのか疑問と言えます。
そして毎回思っていましたが、OPとEDは逆の方が良かったのでは無いでしょうか。
最後になりますが、個人的には史実に寄せてシリアスに振った作風自体は好印象でした。最初の2話が良かっただけに、その後のグダグダが残念でなりません。