目次
DATE
- タイトル:殻都市の夢
- 作者:鬼頭莫宏
- 刊行年:2005年
- 巻数:全1巻
- 出版社:太田出版
- レーベル:F×comics

概要
本作は『ぼくらの』『なるたる』などで知られる作者が隔月漫画誌であるマンガ・エロティクス・エフにて2003年から2005年に掛けて不定期連載していた作品『外殻都市シリーズ』を収録した連作短篇集となっています。
ある都市で紡がれる愛の物語
本作は外殻都市と呼ばれる都市を舞台としています。この外殻都市は、土地が限られているのか定かでありませんが、古い都市の上に新しい都市をカップやグラスの様に被せて造成するという形で造られています。
また管理社会、思想の統制、極端な貧富の差といった要素からディストピア的な雰囲気もそこはかとなく感じられます。また管理社会的な現代か近未来と思われる世界観ながらもゾンビや座敷童の様存在がいるなど、独特な雰囲気も感じられます。
先述した古い都市に新しい都市を重ねていくという構造もそれに輪をかけている様に感じられ、古い下層部は老朽化により崩落しながらも貧民などが集まりスラム街の様相となっている部分もあったりします。
そんな外殻都市で管理官と呼ばれる職にある男女のコンビが様々な出来事に遭遇していくというのが主な展開となっています。
各話感想
第1話 誕生日の棺
「私が殺されている」という印象的な言葉で管理官に接触してきた女性。
その女性の通報により、管理官は長らく別居状態だという女性の夫宅を家宅捜索します。
そこで管理官たちが見たのは狂気とも言える偏執的な愛の形でした。
いきなり強烈な話の1話と思わせてくれます。
第2話 3年間の神
路上生活者の少女が餓死寸前という所で現れた男性。彼は少女にこの場で死ぬか3年間生き延びるかと選択させます。もっとも普通はさほど迷わず後者を選びそうなのであまり選択の余地は無さそうですが。
その男性は3年で死ぬ原因不明の性病に罹っていて、程なく少女も移されます。この病気の3年という期間の起点が発症と特に記載されていないのは潜伏期間がほとんど無く、感染すると即発症で3年間のカウントダウンスタートとかそういった感じなのかも知れません。
いずれにせよ餓死寸前だった少女は3年間という期間限定とはいえ延命され、その間ある意味生活も保障されている様な状態だったと言えます。男性が行った事は単純な善悪で推し量るのは難しいという気がします。
第3話 生死者の聲
前線で戦死した男性の遺体が、集団墓地へ運ばれる途中逃走したという事で捜索していた管理官。前線という事は戦争が起こっている訳ですが、それについて説明される事はありません。
この丙種遺体と呼ばれる存在はいわゆるゾンビではありますが、生前からの意識を保っているのが特徴と言えます。
やがて遺体と遭遇した管理官に対し、ある提案がされるという展開になっています。
その遺体は丙種遺体は前線で生きる希望としいて認知されていたと言います。前線から帰る際は多くが物言わぬ遺体だったという事でしょうか。
第4話 媚薬水の味
外殻都市に存在する、媚薬的な水に関する都市伝説と、それに絡んで男性管理官が少年だった頃の話が描かれています。
その少年は事故により、ある地下生活者の少女と出会います。如何にも少年少女による一期一会の思い出といった話ですが、少年が都市伝説を聞かされていなければ違った展開もあったかも知れません。
第5話 座敷童の印
下層部の崩落調査を行っていた男性は、既に無人となっているはずの街で1人の少女と出会います。地下生活者と思い調べるも該当する市民はいないとされます。もっとも管理社会とはいえ、地下に生きている者まで全ての住人が登録されている物なのかという気もしますが。
ただ本エピソードの場合、少女は住人では無くタイトル通り人ならざる者となっています。男性が持っていた地図に少女が落書きで印を付けるとその場所が崩落しているという事象が起こり、少女が成果を運んできたと考えるも、やがてある疑念が沸き起こります。果たして少女の目的はといった展開となっております。
ただ個人的には人の真似事という辺りのくだりがすこし唐突に感じられました。
第6話 造物主の檻
その頃外殻都市では少女失踪事件が多発し、行方不明になった少女は43名に上ったそうです。管理官たちも絶望的な気持ちを抱きつつ捜査を行っていましたが、ある男性が助けを求めて来た事で一気に解決されます。
その男性は透明に見える構造体に少女たちを全裸で生活させてそれを眺めるというゲームという名の常人には理解出来ない行いをしていた模様です。彼は少女たちが住まう世界の創造主になったつもりだった様ですが、ある意味少女たちの方が上手で自爆してしまった様にも見えます。
第7話 渉猟子の愛
本エピソードは最後に相応しく、これまで語られたうち複数のエピソードが絡んでくる物になっています。
自発的に声を発する事が出来ず、記憶した本を暗唱する存在である『渉猟子』の少女。その少女は4話に登場した地下生活者である少女のクローンでした。
その少女が発禁本を暗唱したという事で管理官の元に連れられてきます。そして見知ったその姿を見て男性管理官は動揺します。彼がオリジナルである少女と会って結構な年月が経っているはずですが、同じ姿という事で反応したのかも知れません。
そしてオリジナルは無口だった為か、その声が聞きたいという欲求があったのか男性管理官は渉猟子に暗唱させて見事に発禁本の内容を聞いてしまいます。
それから巻き添えになった女性管理官が1話に登場したクローン研究家からの助言を得て、記憶可能な冊数以上の書籍を記憶させて古い書籍の記憶を消し去るという方法を採る事になります。
そうして渉猟子の少女から発禁本を上書きさせるという名目で3人が隔離された場所は、性病を患った男女が過ごした家でした。
その場所で男性管理官が愛の本を覚えさせるといったやり取りを女性管理官としている場面で、本エピソードとしては終わり、エピローグへと繋がったいます。3人がこの後どうなったか描写はありませんが、エピローグまで含めて余韻を感じさせる物になっています。
まとめ
本作は外殻都市というやや特殊な舞台で様々な男女の形を描いた連作短篇集と言えます。
その性質上、性的描写も多分にありますが、いわゆる成人向けコミックにコテゴライズされていません。話は全体的に暗めな印象を受けますが、作者は鬱マンガと呼ばれる作品が複数ありますので、それに比べれば読みやすいのではと思われます。