【漫画】金田一少年の事件簿 File(9)飛騨からくり屋敷殺人事件【感想】

  • タイトル:金田一少年の事件簿 File(9)
  • 作者: 天樹征丸、金成陽三郎(作)/さとうふみや(画)
  • 刊行年:2004年
  • 出版社:講談社
  • レーベル:講談社漫画文庫

復讐の首狩り・飛騨からくり屋敷殺人事件!家督相続をめぐって揺れる巽家。
愛憎渦巻くこの家に伝説の首狩り武者が現れた! 恐怖の叫び声の元に駆けつけた一の目の前には、首のない死体が座っていた……。

講談社コミックプラスより抜粋
7.5 out of 10 stars (7.5 / 10)
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概要

『飛騨からくり屋敷殺人事件』は週刊少年マガジン1994年33号から1994年45号に掛けて連載されました。

名家の家督相続争いを描いたエピソード

本エピソードは「金田一 一」と「七瀬 美雪」が警視庁の「剣持 勇」警部に連れられて岐阜県は奥飛騨にあるという『くちなし村』を訪れる場面から始まります。
なんでも剣持警部の幼なじみで数年前に村の名家巽家に嫁いだという女性「巽 紫乃」から助けを求める手紙が届いたそうです。
その内容は最近夫である巽家当主が亡くなった後、「首狩り武者」を名乗る正体不明の人物から脅迫状が届くようになったといった内容がくちなし村に向かうバスの中で説明されます。
またバスには後に巽家の使用人である事が判明する少女や、黒子姿という露骨に目を引く人物「赤岩 三郎」も乗り合わせていました。
そして巽家の屋敷へ到着したはじめたちは紫乃やその息子である「巽 征丸」と会って話を聞きます。

巽家の後継者問題

それによるとどうやら当主亡き後の継承に関して揉め事が起こっているようです。まず亡き当主は前妻との間に2男1女の子をもうけましたが、後妻である紫乃との間には子がいませんでした。征丸は紫乃の連れ子で夫が養子縁組した事で巽姓を名乗っていますが、巽家との血縁関係は無いと言うことになります。しかし当主が残した遺言状では家督と全財産を征丸が相続するとあったため修羅場待ったなしと言える状況になった模様です。
ただ実際は法律で定められた最低限の取り分と言える遺留分が存在するため、財産に関しては征丸の独り占めとはいかないでしょうが、家督は征丸が相続するという点は問題無いと言えそうです。
ただ実子がいるにも関わらず、養子とはいえ後妻連れ子と他の兄弟とは血の繋がりが無いはずの征丸を後継者に指名したというのは何がしたかったのか不明と言えます。実子たちによほど不満があったんでしょうか。
やはりと言うべきか征丸と巽家長男「巽 龍之介」の間に一悶着あった様子が回想で語られます。

首狩り武者と密室殺人

はじめたちが巽家に到着した最初の晩、屋敷内に首狩り武者が現れます。武者は座敷の障子を刀で切り裂き、はじめたちが駆けつけると去ってしまいます。現れた日といいはじめたちに存在を見せ付けているかの様な行動と言えます。
そうして騒ぎを聞きつけて剣持や家中の者がやって来た所で、武者が残した足跡から屋敷内の者であると看破します。
そんな中黒子姿の赤岩が屋敷へ現れます。紫乃は夫の古い友人であると言い、本人は合わせ扉の間に泊まりたいと要求してきたため、その通りに手配されます。どんでん返しと頑丈な鉄扉の内側にある、鉄格子の窓が付いた合わせ扉の間を見たはじめはまるで座敷牢だと感想を述べます。
ただ元々宝物庫だったというだけあって堅牢な部屋であると言えそうです。
翌日、はじめは赤岩に首狩り武者の正体を教えると合わせ扉の間に紫乃と一緒に呼び出されますが、部屋から絶叫が響き何とか扉を開けると室内には頭部を失った赤岩の死体が鎮座していたのでした。座敷牢の様に堅牢な部屋で起こった密室殺人ですが、果たしてはじめは密室トリックを解いて首狩り武者の正体を暴く事が出来るでしょうか。

横溝正史的雰囲気を感じさせるエピソード

本作は事件の犠牲者は少ないですが、その分舞台設定に凝った印象を受けます。
山奥の閉鎖的な村を舞台とし、名家巽家の相続問題、関ヶ原の戦いに遡るという首狩り武者による巽家の呪い、くちなし村の由来、村の成り立ちにも関わっている首狩り武者の伝説など。
どちらかと言えばじっちゃんこと金田一耕助の事件に近い雰囲気を感じ、金田一耕助シリーズを意識して制作されたのかと思えるほどです。
そのため犠牲者は少ないながらも薄味という印象は感じさせません。

不測の事態が招いた事件

事件発生後、警察の捜査などを経て密室であることが判明しますが、当然はじめも調査を開始します。
また行方を眩ませた人物がおり、その捜索も並行して行われます。
しかし首狩り武者の狙いは美雪でした。定期的に危機に陥る美雪ですが、今回ははじめの察知が早かったため2人とも危機に陥る事になります。
それでも何とか危機を脱しますが、さらなる死者が出た所ではじめは真相に気付きます。
そうして明らかになるシンプルだけに意外性ある密室トリックとやはり意外性ある動機。動機については犯人にとって不測の事態が起こったためではありますが、そのきっかけ自体は犯人自信によるものと言えそうです。

まとめ

本エピソードは先述した通り金田一耕助シリーズを思わせる雰囲気となっています。山奥の閉鎖的な村や名家の相続問題などといった要素に彩られ常に不穏さを感じさせて物語が進行しています。
また幼なじみの危機を何とかしようと奮闘する剣持警部や結末などはじめの調査や推理以外でも見どころがある印象のエピソードでした。