
杜王町在住の人気漫画家・岸辺露伴。作品づくりに一切の妥協を許さない彼が、様々な取材先で出会った尋常ならざる体験とは…!?
Amazonより
目次
DATA
- タイトル:岸辺露伴は動かない
- 作者:荒木飛呂彦
- 刊行年:第1巻:2013年 第2巻:2018年
- 巻数:全2巻
- 出版社:集英社
- レーベル:ジャンプコミックス
概要
本作は作者荒木飛呂彦氏の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』第4部『ダイヤモンドは砕けない』のスピンオフ作品である短編集です。
2017年から2020年にかけて、「富豪村」「六壁坂」「懺悔室」「ザ・ラン」の四編がOVA化され、2020年年末には本作から「富豪村」「D・N・A」の二編がTVドラマ化されてNHKにて放送されています。
本作の主人公である「岸辺露伴」の他にも杜王町の住人が登場したりします。
岸辺露伴という漫画家
先述の通り、本作の主人公である岸辺露伴は『ダイヤモンドは砕けない』(以下本編)に登場した漫画家のキャラクターです。
制作姿勢として、リアリティへの拘りがある様で本編初登場時にペンで蜘蛛を刺した後「味もみておこう」と言って舐めたり、『六壁坂』で妖怪の取材する為に取材地周辺の山を買い締めてリゾート開発を頓挫させた為、地価が暴落して破産する羽目に陥ったりしています。リアリティを追求する為には何ふり構わないといった所でしょうか。
その性格は我儘だそうで、実際『富豪村』で編集者に釘をさされる場面があります。その一方で本編で敵に襲われ、命を助ける代わりの要求を去れた際には「だが断る」と突っぱねています。もっともこの発言は相手(敵)の言いなりにならない、相手が嫌がる事をするというある意味我儘と言えます。上記の「だが断る」は非常に有名なセリフですが、個人的には先述した「味もみておこう」が印象的なキャラです。
スタンド『ヘブンズ・ドアー』
『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズは第3部以降スタンドと呼ばれる能力を用いた能力頭脳バトル漫画といった展開になっていて、露伴も『天国の扉(ヘブンズ・ドアー)』というスタンドを持っています。
ただその能力は相手を本に変えて情報を見る事が出来るという、戦闘向きとは言い難い物です。ただ相手の本に情報を追記して行動を制限したり、特定の行動を取らせるといった事は可能で、本作でもヘブンズ・ドアーで危機を乗り切る場面が度々あります。
雰囲気
本作の雰囲気ですが、いくつか例外はあるものの「スタンドバトルの無いジョジョ」といった印象です。
ジョジョ本編では主人公が敵に先手を取られ、敵のスタンド能力によって異常な状況に陥ってから「スタンド攻撃を受けている」というパターンが多くなっています。
本作では露伴がスタンド攻撃じみた異様な状況に遭遇するといった雰囲気です。
各話感想 第1巻
エピソード#16 懺悔室
ヴェネツィアを訪れた露伴が、懺悔室の仕組みを勘違いしてある男性の懺悔を聞かされる話です。
あとがきによれば、当初は露伴を登場させる予定は無かったそうで、懺悔の内容のみで構成されていたと思われます。
その為露伴は話として見聞きしただけで話には直接関わりません。
懺悔の内容はある浮浪者を死なせてしまった語り手が、浮浪者の怨霊に呪われてしまうという物です。その怨霊もそのノリから自立型スタンドの様な印象を受けます。
結末は意外性がありますが、やや説明不足で分かり難い印象を受けました。
エピソード#02 六壁坂
露伴が山を買い占めた成果として取材した、六壁坂と呼ばれる土地に住む妖怪の話です。
六壁坂で300年続く一族の一人娘「大郷楠宝子」が彼氏である庭師「釜房郡平」との別れ話が縺れてしまった事から、死に追いやってしまいます。
大郷家は広いと言えども、ちょうど楠宝子たちがいるゲストハウスに父親と許嫁が向かってくる所でした。狙いすましたタイミングとも取れますが、見つかるまいと楠宝子が奮闘し何とか隠すことに成功するものの、ある事態から長距離移動させることや隠し通す事が困難な状態となっています。
そして郡平は娘の人生に寄生する存在であったと感じられます。
露伴が妖怪六壁坂と名付けた郡平ら、この種族は、取材していた露伴も標的にした事でその生物としての目的が明らかになります。
この巻ではもっとも好きな話かも知れません。
エピソード#05 富豪村
露伴が編集者である「泉京香」に誘われてある別荘地に取材にいった話です。
京香がgoogleマップで見つけたという、山奥に孤立したその奇妙な別荘地。興味本位か調べた京香は25歳でその別荘地の別荘を購入すると、成功して富豪になるという結論に至ります。
そこで京香は別荘を購入するため、経過を取材させるためとして露伴を伴って登山道も無い山奥へ赴きますが、別荘地の主は露伴の想像を超える相手でした。
異様なほどマナーに煩い別荘地の主、マナー違反から露伴と京香が窮地に陥る辺りは緊張感ある展開と言えます。
エピソード#06 密漁海岸
ある日露伴は杜王町に住むスタンド使いのシェフ「トニオ・トラサルディー」からアワビの密漁に同行してほしいと依頼されます。何でも病気で立って歩くことも出来ない恋人の為に最高の料理を作りたいのだとか。
それに対し露伴はアワビを育てるのがどれだけ手間を掛けるのかと言って引き止める素振りを見せますが、トニオが密漁しますと断言すると、「だから気に入った」といってあっさり了承します。トニオの覚悟が気に入ったのか、気まぐれか気になる所ですが「だから気に入った」というセリフは流石という気がします。
トニオは杜王町の歴史を調べ、やがてアワビ密漁の方法に行き着いた様です。
そしてある夜露伴とトニオは杜王町のある海岸でアワビの密漁を試みますがそこには罠が潜んでいました。
直接手を下さず密漁者を葬ってきた罠は入念で意外な物です。その物理的な圧力の前に、露伴はトニオと共にまたもや窮地に陥ります。この状況からどうやって生還するのかと思わせてからの展開は流石と言えます。
ちなみにトニオのスタンドは実際にあれば良さそうなスタンド能力の筆頭と個人的には思っています。
岸辺露伴 グッチへ行く
有名ブランドであるグッチをテーマにしたというエピソードです。
露伴は祖母の形見だというグッチのバッグを持って、遠路はるばるイタリアはフィレンツェ郊外にあるグッチの工房を訪れます。
工房でバッグを修理させた後、露伴はあるトラブルに見舞われますが、そのバッグにある秘密が隠されていた事に気付きます。
ファッションブランドがテーマという事があってか、比較的平穏な話という印象です。
それでも下手したら命に関わっていそうですが。
各話感想 第2巻
エピソード#04 望月家のお月見
望月(仮名)家でのお月見を舞台とした本エピソードにおいて露伴は完全な部外者で、冒頭に登場するだけです。
この望月家は関ヶ原の戦いまで遡れる由緒ある家系だそうですが、直系の人物が中秋の名月に亡くなるという呪いに掛かっているのだそうです。ただ同じ中秋の名月でも月見をしたかによって運命が変わるようです。
その年、望月家の主である父親は子宮頸がんが見つかった妻のためと言うこともあってか、息子と娘を半ば無理矢理に月見に参加させます。もっとも参加しなければ死亡の可能性があるわけですが。
月見中も色々あってファイナル・デスティネーションの様な印象を受けます。
その後家族の1人に電話があり家の外に出ますが・・・
望月家に掛かった呪いは強固な物に見え、先祖は一体どういった行いをしたのかと思ってしまいます。ただ同時にルールに厳格でもあると見られます。
エピソード#07 月曜日 天気-雨
露伴が雨の日にある駅で遭遇した出来事です。
歩きスマホしている人たちが不自然なほどぶつかってくるのはなかなか気味悪い展開といえ、スタンド使いと戦ったりした露伴が警戒するのは仕方無いと言えます。
ただ実際の所、露伴は単に巻き込まれただけですが。
そして歩きスマホの人物たちが無意識の内に操られていて、駅のホームを混沌した状況に陥れた上に人を死に追いやったというのは歩きスマホへの風刺と取れそうです。
エピソード#08 D・N・A
冒頭に交通事故の場面が描かれた後、露伴が杜王町に住むスタンド使い「山岸由花子」から依頼される場面になります。
由花子は母親の友人であるという「片平真依」の娘「真央」について調べて欲しいとの事です。
真依は15年前に新婚だった夫を交通事故で亡くしていているそうで、それが冒頭の事故だと分かります。
子供は欲しいは再婚する気持ちにはなれなかった真依は精子バンクを利用して真央を生んだそうです。しかし真央は逆さまでしか話さなかったり、尻尾が生えてきたりその尻尾に触れると保護色になるなど普通の人間と異なる特徴を持っています。
由花子は露伴に対して、真央を治して欲しいと無茶振りとも取れる依頼をします。そして露伴はヘブンズ・ドアーで真央を調べた所、遺伝でも病気でも無く心の形であると言い残して去って行きます。
由花子は去って行く露伴に罵声を浴びせますが、その後ヘブンズ・ドアーの情報を少し見たと言い真央の父親に当たる人物が山形にいると告げます。
真依は山形と言っても広いのではと半ば途方に暮れた様子で真央を連れて山形駅に向かいますが、運命的な出来事が待っていました。
本エピソードはこのシリーズで最も平穏と思われます。冒頭の事故を除けば露伴を含めた全ての登場人物が危険に晒される事はありません。これは本エピソードが少女マンガ誌に掲載されたという事もあるのかも知れません。
また山形駅到着後の出来事はややご都合主義的な部分もありますが、短編という事もありますし、タイトル通り真央の中にある遺伝子組み換えが誘ったとも思えます。
個人的にはこの巻でもっとも気に入ったエピソードです。
エピソード#09 ザ・ラン
露伴がスポーツジムで起こった戦いを振り返る内容のエピソードです。
杜王町在住と思われる青年「橋本陽馬」は東京の原宿へ出掛けた際にモデルへスカウトされたそうです。
それをきっかけに映画俳優を志した陽馬は、トレーニングで身体を鍛えます。しかし彼女に食事のメニューを指定するなどといった行動から段々エスカレートして行きます。
同棲している彼女の賃貸マンション外壁にまでポルタリングで使用するのは異常と言う他ありません。
そんなある日露伴と陽馬はスポーツジムである対決をします。それはランニングマシンを時速25kmまで上げて行き、25kmになって先に停止スイッチを押した方が勝ちというもので、一度露伴が勝っている様です。
しかし異常な執着心を持っている陽馬は公正な勝負と言いながら、ランニングマシン後方にある窓ガラスを割るなど対決を命懸けの物に変えてしまいます。ちなみにトレーニングジムがあるのは建物の8Fです。
そんな命を懸けた勝負の最中、陽馬が最早人間で無い事に気付いた露伴は、試合に負けて勝負に勝った様な形に持ち込みます。
元々はトレーニングに熱心な映画俳優志望の青年だった陽馬が、いつからあの様な存在になってしまったのか気になる所です。トレーニングへの拘りがエスカレートする中で変貌してしまったのでは無いかと思われます。
まとめ
人気シリーズのスピンオフ作品である本作ですが、単独作品としても充分楽しめる作品であると言えます。
単独作品として見た場合、サスペンスホラー的な展開から、主人公である露伴がスタンド能力を駆使して切り抜けたりする点が特殊と言えなくありません。
しかし本作で露伴がヘブンズ・ドアーで状況を打破しなければ行けない場合は並の人間ではどうにもならない状況が多いと思われます。そのため全体的にスリリングな印象を受ける作品が多めと感じられます。