目次
DATA
- 刊行年:1998年
- 著者:山口 雅也
- 出版社:講談社
- レーベル:講談社文庫

密室殺人にとりつかれた男の心の闇、一場面に盛り込まれた連続どんでん返し、不思議な公開捜査番組、姿を見せない最後の客。人気の本格推理作家が明確な意図を持ってみずからの手で精密に組み上げた短編集。謎とトリックと推理の巧みな組み合わせが、人間の深奥にひそむ「ミステリー」を鮮やかに描き出す。
Google booksより
概要
本作はミステリの短編集です。
元々94年に単行本として発売された物が98年に文庫化された物です。
そんな本作のテーマは「狂気と逸脱」で、それを示すようにすばらしき実験作の数々を読むことができます。この作品は二枚組みのCDに見立てられ、前半が「DISK1」後半が「DISK2」と表記されています。
主な作品を簡単に紹介します。
DISK1
#1『密室症候群』
現代の『ドグラ・マグラ』ともいえる作品です。
但し短編ですが。精神医学や心理学を中心に、現実と虚構が入り混じる展開は目まぐるしいものがあります。
僅かなブラックユーモアっぽいものが混じっているのもなんともいえません。やや詰め込みすぎといった感じもしますが、こういった作品は少し詰め込んだ程度が良いように思えます。
#3『いいニュース、悪いニュース』
このような話にはどのような評価をすればいいのでしょうか、個人的には理解できない趣向も混じっておりますので、何ともいえない物もありますが、ただ当事者にとって『悪いニュース』は無かったように思えます。
#5『解決ドミノ倒し』
本作で一番気に入っている短編です。
解決編から始める展開、繰り返されるドンデン返し、原形をとどめないほどに歪められるストーリー、いったい迷走する話はどこへ向かうのか。
予測不能の展開に笑ってしまうこともあるでしょうが、最後の解決は理解できるでしょうか。
DISK2
#1『「あなたが目撃者です」』
「小説」と「台本」。
通常の一段と文庫なのに二段組みと、異なる形態が入り混じった短編。
そういった外見が目を引くでしょうが、サスペンス的要素と本格推理要素といった具合に物語的にも異なる形態がぶつかり合う、意欲的な作品です。
実際に公開捜査番組を見ていてこのような目に遭ったらどうなるかと思います。
#2『「私が犯人だ」』
あまりにも奇妙な印象を与える倒叙物です。
一般的な倒叙とは異なるような印象を受けますが、それは犯人が自首しようとしているからでしょうか。
それなのに話が終わらないのが本作の特徴ですが、それについて主人公はどのような気持ちだったのか。
#5『不在のお茶会』
本短編集の最後にあるのは最大のボリュームを持つ本作です。
同時に本作は、この短編集のメイン・テーマの一角を担っていると言えます。
しかし他の作品と同様、いえ、それ以上に一筋縄ではいきません。
なぜかお茶会を続ける登場人物たち、それぞれの境遇を語った彼らはそれぞれの話に登場したある人物をキーワードに今の状況を結論付けます。
こういったテーマの話を考える作家は多数いると思われます。
しかし個人的に読んだ限りで作例があまり無いのは、下手にやると失敗するからだと思われます。
しかし本作は成功しており、なおかつ難解ではありながらも、論理性を取り入れているところも見逃せません。
この登場人物たちのようなことを考えは、真剣さの度合いに差はあれど、誰しも一度は考えるかもしれません。
もっとも個人的には、『自分』としての意識と感覚があれば、どちらでも大差ないように思えるのですが、それはただに一般論かも知れません。
まとめ
これらをどう纏めればよいのか、見当がつきませんが、本作が非常に実験的な作品たちで構成されているのが良く分かったのではないかと思えます。特に最後の作品を中心に、あるテーマが緩やかに流れているようにも思えます。
『ミステリー』について考えてみたい方や、一風変わった本格推理小説短編集を読んでみたい方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。