【ミステリ】夏と冬の奏鳴曲【感想】

スポンサーリンク

DATA

  • 刊行年:1998年
  • 著者:麻耶 雄嵩
  • 出版社:講談社
  • レーベル:講談社文庫
5.5 out of 10 stars (5.5 / 10)

首なし死体が発見されたのは、雪が降り積もった夏の朝だった!20年前に死んだはずの美少女、和音(かずね)の影がすべてを支配する不思議な和音島。なにもかもがミステリアスな孤島で起きた惨劇の真相とは?メルカトル鮎の一言がすべてを解決する。新本格長編ミステリーの世界に、またひとつ驚愕の名作が誕生!

Amazonより抜粋

概要

本作は麻耶雄嵩氏の二作目に当たる作品で、メルカトル鮎シリーズの一作に数えられています。

8月の雪が降る離島の惨劇

京都のタウン誌編集部でアルバイトしている「如月 烏有」は無理やりついてきた「舞奈 桐璃」とともに、日本海にある通称『和音島』へ取材に向かいます。
かつてこの島で生活し映画撮影を行ったメンバーが二十年ぶりに再会するという記事の取材だったのですが、そこで待ち受けていたのとは・・・
粗筋のさわりの部分だけさらりと述べればこういった感じでしょう。

本作の話はなかなか動きません。八月の向日葵が咲いている島。そしてそこに降る雪と、異様な雰囲気は醸しだしていますが、「和音」をめぐる思い出話を陶酔して語りだす登場人物たちや、キュビスムに関する衒学的説明が少しばかりまどろっこしく感じられます。

そうした後にようやく事件が起き、それは雪の中の死体。本格推理でいう所のいわゆる雪密室に分類される物になります。
ただ本作のそれは異質な物に感じられます。

しかし本作は、殺人事件の呆れるような真相が明らかになってから本領を発揮する作品と言えます。
ただ終盤における桐璃の危機や明らかになる『春と秋の奏鳴曲』などインパクトある場面もいくつかあります。
そんな本作は理解できない部分が多々ありますが、だからといって、駄目だといって捨てるのも惜しまれる不思議な作品という印象を受けます。

ネタバレ含む考察

先述した本作で理解出来ない要素として

  1. 『春と秋の奏鳴曲』の内容。
  2. 理解不能な雪密室
  3. 二人の桐璃
  4. メルカトル鮎の言葉

上記の点が挙げられます。
これ以上あったとしても知りません・・・本作はそういう作品なのだと思ったほうが良いでしょう。

この内何とか推理が可能なのは3と4のみと言えそうです。1については続編と言える『痾』で触れられていた覚えもありますが。

二人の桐璃について

これは桐璃はもともと二人いたのだとしか考え様がありません。多分一卵性双生児と思われ、服装や喋りかたの違いで判別可能です。
ただこの点については最終盤における烏有の選択が衝撃的です。

メルカトル鮎の言葉

解決とはほど遠いと思える台詞ですが、これから考えるに編集長=和音、とでも言うのでしょうか。
他に意味のあることが考えきれません。なぜか和音は実在しなかったことになっていますが、これは彼らの行ったことを隠蔽するための嘘だったのでしょう。そこで彼らが集まることを知って、桐璃を送ったといったことしか考え切れません。

和音と桐璃がそっくりなのは娘だからと考えるのが妥当と思われます。
ただ当然ながら確証はありません。そもそも情報が足りないというのが正直な所感ですが、本作がミステリーである以上、何らかの真相があるはずという仮説を立てると推測可能なのはこの程度だと思われます。

まとめ

本作は様々な点で異様な作品と言えます。
物語の舞台を始めとして、雪密室のとんでもないトリックにそこらに散りばめられながらも明かされない謎の数々などはミステリーとしては逸脱していると言えます。
しかしその尖った作風は理解不能といって切って捨てるには惜しい面もあります。