目次
DATA
- 刊行年:1999年
- 著者:東野 圭吾
- 出版社:講談社
- レーベル:講談社文庫

完全密室、時刻表トリック、バラバラ死体に童謡殺人。フーダニットからハウダニットまで、12の難事件に挑む名探偵・天下一大五郎。すべてのトリックを鮮やかに解き明かした名探偵が辿り着いた、恐るべき「ミステリ界の謎」とは?本格推理の様々な“お約束”を破った、業界騒然・話題満載の痛快傑作ミステリ。
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概要
本格推理小説にはカテゴリーがあります。密室、孤島物、嵐の山荘、アリバイ物、叙述物などなどですが、そうカテゴリーをテーマにしたものが本作です。
この作品はパロディの連作短編集です。一作ごとに密室やダイイングメッセージといったカテゴリーをテーマに話は進みます。
また本作は2009年にテレビドラマ化していますが、そちらは未視聴です。
本格推理小説への皮肉
本作の主人公である名探偵天下一大五郎や大河原番三などの登場人物は、自分が小説中の人物であることを自覚しており、「読者が本を放り出しても知りませんよ」といったメタ的な台詞も出ます。そういったものが微笑ましいではありますが、本格推理の形式に対する自虐的な皮肉でもあり、作者の本格推理に対するスタンスが伺えます。言ってしまえば素直でない、ひねくれた愛情といったところでしょうか。
本格推理の重要な要素である『意外性』この本の終盤ではこのテーマも出てきます。自分も意外性のある話は好きですが、作者がそれを憂いているようにも思えます。
こういった姿勢があったからこそ、後に『どちらかが彼女を殺した』や『悪意』といった作品が出たのではないかと思えます。一見笑いを狙いつつ、実は本格推理に対する愛情や皮肉などが入り混じった作品です。
個別感想
主な短編の感想を書いていきます。
選んだ基準は個人的な印象です。
第一章 密室宣言
副題は『トリックの王様』
密室はトリックの王道であると言っても良いでしょうが、それだけにトリックは出尽くしたとも言えます。
その為古臭いと見る向きがあるのか、作中の登場人物たちは密室と聞くと笑いを堪えたりする様な有様で、探偵も密室殺人を嫌がっています。
そんな中で事件を解決しなくてはならない探偵に同情してしまいます。
第二章 意外な犯人
副題は『フーダニット』
誰が犯人かという事に主眼が置かれたフーダニット。いわゆる犯人当てをテーマにした作品です。
限られた登場人物の中で、ひたすら読者の裏を書こうと描かれた犯人は個人的にはアウトで、本格推理小説の範疇では無いと考えます。
事件解決後に読者から物が投げ込まれるのもある意味当然と言えます。
第五章 アリバイ宣言
副題は『時刻表トリック』
時刻表トリックをテーマにした本短編は自己主張が激しい犯人が印象的です。
作品のテーマ上、早期に有力な容疑者が判明し、アリバイを尋ねます。
そこからは犯人に取って一世一代の晴れ舞台とばかりにアリバイの説明をします。実際小説の犯人役として生み出されたキャラクターからすれば一世一代の晴れ舞台な訳で作中でも「人生最大の楽しみ」とされています。
そんな犯人が印象的な本短編ですが、時刻表トリックはダイヤ改正やその他の理由で通用しなくなる恐れがあるジャンルであると感じさせられます。
第六章 『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論
副題は『二時間ドラマ』
タイトル通り二時間をテーマにしていて結末が印象的な短編です。
ドタバタした場面や入浴シーンを挟んだりしながら、最後は何故か海に面した断崖絶壁で犯人を追い詰めて告白させる。
個人的にはテレビを見なくなって久しいですが、今もこの様な典型的な二時間ドラマは放送されているのか気になる所です。
第九章 殺すなら今
副題は『童謡殺人』
本短編はいわゆる「見立て殺人」がテーマになっています。
某マザーグースに似た、既視感ある童謡は何故か10番までと無駄に長く、当然それに従って事件が起きます。
童謡通りに事件が続くというプロットの都合上無能と化す名探偵。そして混迷する解決編とドタバタした印象があります。
その上タイトル通りの結末はインパクトがあります。
第十章 アンフェアの見本
副題は『ミステリのルール』
本短編はトリックを明かせないタイプになります。
とはいえ海外古典ミステリからある手法ですし、バリエーションが増やせるタイプでも無い為、これを使って意外性とするのも難しいのでは無いかと思われます。
探偵がそれをもって「オリジナリティが感じられない」「芸もなければ技もない」とこき下ろすのは理解出来ます。
まとめ
個人的には最も一番気に入っている作品のひとつです。一作一作が、パロディでありながら短編として読めるようになっていますし、笑えるシーンなどを織り込みながらも、本格推理に対して問題を投げかけています。
最後の一作、『最後の選択』はそれがもっとも顕になっていて考えさせられます。
こういったさまざまな要素を一作に盛り込んだということで高得点としています。