【2022年アニメ】薔薇王の葬列【感想】

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DATA

  • タイトル:薔薇王の葬列
  • 放送クール:2022年冬 、春
  • 話数:24話
  • 制作:J.C.STAFF
  • 監督:鈴木健太郎
  • 脚本:内田裕基
6 out of 10 stars (6 / 10)

概要

本作は菅野文氏が2013年から2022年に掛けて秋田書店から刊行されている女性向け漫画雑誌『月刊プリンセス』にて連載されていた漫画をアニメ化したものです。原作はイングランドの劇作家ウイリアム・シェイクスピアによる史劇『ヘンリー六世』『リチャード三世』を原案にするという形で15世紀のイングランドで起こった、30年に渡る王位継承の内乱である『薔薇戦争』を描いています。
またメディアミックスもされていて、ノベライズやアニメをベースにした舞台作品も上映されています。

薔薇戦争をモチーフにした物語

本作の主人公である「リチャード・プランタジネット」は同名である「ヨーク公」リチャードの3男です。ヨーク公爵家は当時の王家であるランカスター家と同じく、前王朝たるプランタジネット朝の傍流です。しかしヨーク公は統治能力皆無な「ヘンリー6世」の宮廷にて展開される、王妃「マーガレット」との政争で劣勢になったため武力行使に出たという背景があります。

ヘンリーとの出会い

そういった事情でランカスター派と戦うべく出陣するヨーク公の為にと、リチャードは世話役「ケイツビー」の手ほどきを受けながら日々剣や馬の鍛錬を励みますが、なかなか上達しない事を悩んでいます。特にいくら剣を振っても腕が太くならない事を気にしていますが、それは彼の身体的特徴が原因と思われます。
そんなある日リチャードは森の中で怪我した白い小猪とそれを見守っていた少女「アン・ネヴィル」と出会います。リチャードはアンの心配を余所に小猪を連れ帰り、飼い始めます。
そして後日ある晩、小猪の導きによりリチャードは森で自称羊飼いの青年ヘンリーと出会い交流します。
この時リチャードは知る由もなかったのですが、このヘンリーは心神喪失状態で徘徊していたヘンリー6世だったのです。リチャードは図らずも敵方の象徴的存在と出会い惹かれて行きますが、戦乱は激しさを増していき、ヨーク軍は破れてヨーク公はマーガレットに処刑されるのでした。

主人公リチャードと人間関係について

本作におけるリチャードは両性具有者となっています。史実で男子がいたにも関わらず、原案者シェイクスピアはリチャードを不具者と描いた様で、原作者はそれをさらに発展させたと言えなくもありません。
序盤は普段男性として振る舞っているリチャードが時々女装するといった場面がある程度でしたが、第二部に入ってしばらくすると表面的には男性として振る舞っているにも関わらず、「バッキンガム公」のおかげで女性的な面がやたら強調されるという事になっていました。
その他人間関係としてはリチャードと親しくなっていくヘンリーに加え、ヘンリーの息子でリチャードと争った時から女性と思っている「エドワード王太子」も現れて三角関係の様相を呈して来ます。さらにリチャードに対し恋慕の思いを持っていたアンもいますが、彼女はリチャードとの政略結婚を拒絶したため、エドワード王太子と政略結婚する事になります。夫婦でリチャードの事を語る様子は見ていて微笑ましいと言えなくもありませんが、リチャードを巡る人間関係が親子だったり夫婦だったりとやたら濃密に感じられたりします。
しかし1クール目である第一部終了前にランカスター親子は退場してしまうのは乱世故の無情と言えるでしょう。
ただ第二部ではバッキンガム公の独壇場となってしまうのが少し微妙に感じられました。

長い戦乱の物語

先述した通り、薔薇戦争は断続的ながらも30年という長期に渡る内乱で、本作における経緯もおおよそは史実になぞっていると感じられました。
そのためストーリー展開は全体的に重たい物となっています。
序盤において父ヨーク公を失ったリチャードは2人の兄「エドワード」「ジョージ」と共に戦います。リチャード自身の目的は復讐であり、ランカスター派の殲滅でした。
その身体故に相変わらず線は細いながらも鍛錬の賜物か剣の腕は優れている様で、ヨーク軍きっての猛将といった雰囲気となっています。ひとまずヨーク軍が勝利を収めてヘンリー6世を廃位し、リチャードの兄エドワードがエドワード4世として即位します。
しかし好色家として描かれていたエドワードはその行いによって父ヨーク公時代からの腹心で『キングメーカー』と呼ばれていた「ウォリック伯」の離反を招きます。ウォリック伯はジョージも離反させようとするも失敗して討ち死に、ウォリック伯と合流予定だったランカスター派も各個撃破されます。ランカスター家を絶やしたくないというマーガレットとアンの努力も虚しくエドワード王太子は自ら捕まり処され、ヘンリー6世はリチャードの母「セシリー」によってリチャードへの呪詛を吹き込まれ影響で、リチャードによって処された事でランカスター家の直系は断絶となった様です。
しかしその後も争いは収まらず、エドワード4世の王妃である「エリザベス」の実家ウッドヴィル家は将来の実権掌握を狙い、そのウッドヴィル家を巡ってエドワード4世とジョージの兄弟は対立します。
ランカスター家を倒したと思えばヨーク朝内での争いとなった訳です。
そしてエドワード4世の崩御を契機にリチャードとウッドヴィル家による主導権争いとなり、バッキンガム公を腹心とするリチャードはこれを制して権力を掌握し、その後エドワード4世の子であるエドワード5世を廃位して自らがリチャード3世として即位します。
しかしここで終わるはずも無く、史実を知っていればおおよその展開は予想出来ます。史実におけるリチャード3世の治世は僅か2年です。リチャード3世主宰の宴席に旅芸人を装って入り込んだ1人の男性「ヘンリー・テューダー」はリチャード3世の王子「エドワード」とエドワード4世の娘でリチャード3世を慕う姪の「エリザベス」に目を付けます。エドワード王子は視聴者視点では誰の子種か一目瞭然だったりリチャードを想う気持ちが遺伝子レベルで刻みこまれているのかと思うほどリチャードにべったりだったりします。
そんなヘンリーはエドワード王子に対し、リチャード3世と似ていないと言い放ちます。ただ先述の通りこの事自体は視聴者からすれば周知の事です。
ただランカスター傍流出身の母を持つというヘンリーが現れたのはいよいよ終局が近い事を感じさせますが、薔薇戦争終結までにはいくつもの悲劇が待ち受けていました。

作画、雰囲気など

本作は作画、雰囲気ともに独特な物を感じさせます。
ただ予算の多くを声優に費やしたのかと思うほど、ベテランを中心とした豪華声優陣に対して作画は少ないリソースでとにかく崩さない事を優先したのかと感じさせるほど動きが少なくなっています。
またモブキャラの顔が描かれないのはほぼデフォルトで主要キャラすら顔が描かれない事があるのは雰囲気で何とかなってはいるもののやはり作画にかけられるリソースが少ないと感じさせます。
ただ終盤は比較的動くように感じられました。
また作中頻繁に登場するリチャードへの呪詛は演劇を思わせる物になっていて、原案である劇が元になっているのかと感じました。
そういったリチャードへの呪詛や悪魔の子と呼ばれたり、終盤には家臣からも悪しきざまに言われたりしますが、これは原案者シェイクスピアが活躍した時代がリチャードを倒して成立したテューダー朝やその流れを汲む後継王朝であるスチュアート朝の時代だったためリチャード3世は悪役とされがちだった事も影響していそうです。

まとめ

本作は薔薇戦争を通じて、主人公リチャードの少年期から敗北までを描いています。
そういった事もありストーリーは全体的に重く、また歴史物という事もあって登場人物が多く、さらに欧州故のファーストネームが被っている事も相まって人間関係が分かり難い部分があるかも知れません。
しかしそれを乗り越えると独特な雰囲気と陰謀や愛憎渦巻く物語を楽しめるかも知れません。
また最終回では薔薇戦争の最終決戦にあたるボズワースの戦いが描かれますが、本作における結末は最初はリチャードと同じ様に困惑しましたが、意味が分かると意外性がありながらも伏線が貼られていて納得の結末といった印象でした。