【漫画】さよなら絵梨【感想】

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DATE

  • タイトル:さよなら絵梨
  • 作者:藤本タツキ
  • 刊行年:2022年
  • 巻数:全1巻
  • 出版社:集英社
  • レーベル:ジャンプコミックス
7 out of 10 stars (7 / 10)

私が死ぬまでを撮ってほしい──病の母の願いで始まった優太の映画制作。母の死後、自殺しようとした優太は謎の美少女・絵梨と出会う。2人は共同で映画を作り始めるが、絵梨はある秘密を抱えていた…。現実と創作が交錯しエクスプローションする、映画に懸けた青春物語!!

Amazonより抜粋

概要

本作は集英社のWebコミック連載サイト及び漫画アプリ『少年ジャンプ+』にて2022年4月に読み切りとして掲載された作品です。
作者である藤本タツキ氏は週刊少年ジャンプで連載された『チェンソーマン』で知られる人気漫画家です。

ドキュメンタリー風映画を題材にしたメタ作品

本作は主人公「伊藤 優太」が中学生になった直後の誕生日プレゼントでスマホを貰う場面から始まります。優太は貰った直後からスマホのカメラで撮影している様子です。
そんな優太は母親から病気で死んでしまうかも知れないから動画で記録して欲しいと頼まれます。この時点で母親は良くない病気に罹っていたのか定かではありません。ただ優太は母親の頼みを受け入れ、動画で撮って行きます。
当初は普通の日常風景で、動画保存も兼ねたPCを購入して貰った事が報告されたりしましたが、父親がひっそりと泣いている事を報告するコマが挟まれたりと伊藤家に取って状況は芳しく無いであろう事が推測出来ます。
やがて母親は入院し、体調は悪くなっていく様子も描かれています。
そして母親が危篤らしいという事になり、優太は父親と一緒に病院へ向かいますが、その途中で母親から息を引き取る所まで撮って欲しいと伝えられます。
しかし病院前に辿り着くと、母親の臨終に立ち会うという事に動揺したのか病院から離れていき、やがて駆け出していきます。
そこからの唐突な展開から優太が制作した映画であり、文化祭で上映されていた事が分かりますが、それまでの流れをぶち壊す唐突な結末から視聴者からは軒並み糞映画と酷評されます。もっとも酷評されても仕方ない結末とは思いますが。

少女との出会い

上映が終わった直後教師に呼び出されて注意されたり、周囲に感想を聞いても意味不明、胸糞悪い、糞映画などと決して不当とは思えない酷評の言葉が投げかけられます。教師の言葉からすれば母親は実際に亡くなっている様なので、それを知る人からすればなお質が悪いと感じられるかも知れません。
そんな言葉に傷付いたのか、かつて母親が入院していた病院の屋上から飛び降りようとします。あの様な映画を作った上映した割にはメンタル弱すぎないかと思いますが、打たれるのに慣れていなかったのかも知れません。
そして屋上に到着した優太に対し、1人の少女が病院の評判が悪くなるから止めろともっともな理由で止められます。しかし相手が優太と知ると映画館の廃墟で一緒に映画を見ることを強要します。どうやら彼女はこの廃墟で勝手に独り上映会を開いていた模様です。
やがて少女は優太の映画を良かったと言いつつも、自分以外の皆が酷評していたという事が不満気な様子で、来年の文化祭でリベンジするためにも、まずは様々な映画をインプットするよう持ちかけます。今からインプットして行って1年後に映画を完成出来るのかという気もしますが、恐らく同じ様なドキュメンタリー映画になるのでしょう。
そして「絵梨」と名乗った少女は優太のマネージャーを務めると言い、優太は2人で来年の文化祭を目指すのでした。

動画撮影を模した構成

本作の特徴として、多くのコマがスマホでの動画撮影、あるいは映画のスクリーンを模した様な横長となっていて、さらに撮影者である優太の視点か定点となっています。
これは冒頭から一貫しているため、作中における現実と作中作であるドキュメンタリー風映画の区別が読者視点では曖昧になってしまうという一種のメタ的手法になっていると思われます。
本作を読み進めて行くと、映画の結末をもって現実に戻っていたと思っていたのが疑問に感じられたりする様な構成と言えます。所々映画の様な演出を思わせる箇所もあったりします。
しかしストーリー展開そのものは淡々といった雰囲気で進んでいきます。

まとめ

人気漫画家のネット媒体限定読切として話題になった作品の単行本です。
主要なキャラクターが少ない事もあってか、優太がヒロインである絵梨と出会ってからは彼女を描くのがメインになっている様に感じられます。もっともタイトルにも入っているからには彼女が作品のメインなのでしょう。従ってややクセのあるヒロインへの印象が本作への感想に大きく関わって来そうです。
そんな中での優太の父親を通して優太のこだわりや母親を撮った影像の裏側などといった部分も描かれます。
全体的にはあっさりしていて読みやすいながらも色々考察の余地もある作品と言えます。