目次
DATA
- タイトル:処刑少女の生きる道
- 放送クール:2022年春
- 話数:12話
- 制作:J.C.STAFF
- 監督:川崎芳樹
- 脚本:ヤスカワショウゴ

かつて日本から訪れ世界に大災害をもたらした《迷い人》。
公式サイトより抜粋
彼らは過去に世界を滅ぼすほどの厄災をもたらしたことから「禁忌指定」となり、人知れず処刑する必要があった。
《迷い人》の処刑を生業とする《処刑人》のメノウは、ある日、日本人の少女・アカリと出会う。
いつものように任務を遂行しようとしたメノウだが、アカリの“とある能力”により失敗に終わってしまう。
アカリを確実に処刑するため、彼女を連れて、いかなる異世界人をも討滅可能な儀式場があるというガルムの大聖堂を目指すメノウ。
殺されるために旅をしているとは知らず純粋に楽しむアカリの姿に、メノウのなかで何かが変わり始めていた。
これは、彼女が彼女を殺すための物語。
概要
本作は佐藤真登氏の同名タイトルライトノベルを原作とする異世界アニメです。
原作ラノベは2019年の第11回GA文庫大賞で大賞を受賞し、SBクリエイティブより刊行されていますが、GA文庫大賞にて大賞が選ばれたのは7年ぶりだったそうです。
またアニメが放映された時点で7巻までが刊行されていますが、2020年12月からはスクウェア・エニックスの『ヤングガンガン』にてコミカライズ版が連載されています。
異世界転移者が駆逐される世界
本作は1人の少年が異世界に召喚される場面から始まります。しかし無能力と判断されたらしく召喚された城を追い出されて途方に暮れていた所、神官の少女「メノウ」と出会います。彼女は少年を当座の宿として教会へ案内する道すがら、作中世界について説明します。
それは上位から聖職者、王侯貴族、平民という身分制度が敷かれている事と、古くから『迷い人』と呼ばれる日本からの転移者が現れていて、日本由来の知識や文化が根付いていて日本語が公用語となっているなどといった事です。ここまで文化的に侵略されてしまうとはどれだけの日本人がやって来たのかという気がしますが、それだけ大きな影響力があったという事なのかも知れません。
そして到着した廃墟同然の教会で、メノウは少年に能力の発動を促します。促されるままに『純粋概念』と呼ばれる能力を発動した少年はあらゆる物を消し去る事が出来る『無』の純粋概念を持っていた事が分かります。無能力ではなく、無の能力だったというオチで、良くある異世界転移物だったら勘違いで追い出されたけど能力で成り上がっていくという展開になりそうですが、本作において少年は能力が分かった直後メノウに殺害されます。彼女はただの神官では無く、教会に属し迷い人を速やかに消す事を任務とする『処刑人』だったのです。
処刑対象との旅へ
どうやら迷い人は純粋概念を使いすぎると正気を失って暴走し、過去に存在した文明を破壊してしまうなど、世界に大きな爪痕を残していったという経緯や元の世界に還す手段が存在しない事から、迷い人は見つけ次第処するという方針になった様です。
そしてメノウは少年の証言から、もう1人召喚されていた少女がいた事を知ります。そこでメノウは彼女を先輩と慕う補佐官「モモ」の支援を受けて、召喚された少女が軟禁されている城内へ潜入した途端、目的の少女「トキトウ アカリ(時任 灯里)」と出会います。
すぐにアカリを連れて城から脱出する振りして、その途中で処したかと思われました。しかしアカリの純粋概念『時』により、死の間際に自動発動する『回帰』能力で直前の状態へ戻されてしまいます。
これでは事実上不死身であり、通常の手段で処刑する事は不可能と判断したメノウは教会の上役へ報告します。するとどんな純粋概念でも滅ぼせる儀式があるため、そこへアカリを連れて来るようにとの達しとなります。
そのためメノウは処刑対象であるアカリを連れて旅へ出る事になるというのが最序盤の流れです。
世界観
本作の世界観は出だしこそ一般的な異世界物に見えますが、なかなか独特な物となっています。召喚などの異世界転移にありがちな疑問にどうやって会話しているのかという物がありますが、本作の場合はみんな日本語話してるで解決しますし、それにも明確な理由があります。先述した様にこの世界は日本人が度々やって来ています。それはアカリたちの様に純粋概念目的で召喚される事があれば、迷い人と呼ばれる様に自然的に迷い込んでしまう事もあり、このケースでも純粋概念は付与される模様です。そしてどちらにせよ元の世界に還る手段は無いとされているため、迷い人は暴走するか処されるかというロクでも無い結末を迎えます。
そして迷い人は少なくとも1000年以上前からやって来ていた模様です。ただ異世界側の時間軸は関係なしに迷い人は現代日本から来ていたと思われます。
そのため迷い人は純粋概念のみならず様々な知識をもたらし、一時は文明の発展に寄与した様な描写もあります。
しかしその後迷い人の暴走が多発したと思われ、『人災(ヒューマンエラー)』と呼ばれる災害レベルの暴走や『4大人災』と呼ばれる程の純粋概念の暴走が起こって文明が崩壊した事から、異世界召喚は禁忌、迷い人は処すべしとなったという背景が本作にある様です。
ちなみにメノウも人災に巻き込まれて身寄りや記憶を全て失ったとされ、処刑人である「フレア」に引き取られたという過去があります。
当初は単純に異世界転生、転移物へのアンチテーゼ的に作られたのかとも思いましたが、世界観などはしっかり作られているという印象です。
ループ物としての側面
本作のヒロイン的ポジションにいるアカリは先述した様に時の純粋概念を持っています。
当初は自身を対象とした回帰による復活や部分的に回帰させての治癒といった用途に留まっていました。
しかし序盤の列車乗っ取り事件に際して、メノウたちは違和感を感じており、後に事件が悲惨な結末となったためにアカリが時間を戻したのではないかと推測します。
ただ序盤のうちはアカリの視点が一切無く、一見考えなしに行動している様に見える彼女の内心が一切不明となっています。
しかし中盤の6話にて、アカリが儀式場で発した一言が本作にループ物としての性質を含んでいる事を思い知らせてくれます。ここから度々アカリ視点も入るのですが、彼女は旅の末路とメノウへの激重感情から、ある目的を持って何度もループしている模様です。
それが分かってから本作は格段に面白く感じた印象です。
百合の気配
本作の主要キャラクターは全員女性となっています。そしてキャラクター間で重たい感情があり、アカリやモモのメノウに対する思いやそれに関する三角関係が百合の気配を感じさせます。アカリとモモは互いに相手がメノウを独占しようとしているとブーメランじみた思いを持っている様です。
またモモは旅が始まるにあたって、メノウがアカリに対して情が移って処刑を躊躇う様になるのではないかと警戒していました。メノウはラスト付近でアカリは処さねばならないとしながらも内心では揺らぎつつある様な描写がなされ、モモの懸念は的中したと言えます。そしてモモはそれを見抜いてか、場合によっては自身でアカリを処する覚悟の様で、今後三角関係の解決も兼ねてモモがアカリに対して実力行使にでる可能性もありそうです。
その他にはモモの事を異様に気に入っていて、行く先々で会っては対決や共闘したりするグリザリカ王国の王女で騎士「アーシュナ・グリザリカ」というキャラクターの存在や、ラストでは敵キャラクターもコンビ結成される事から、今後はカップリングのバリエーションが増えるかも知れません。
作画、演出など
本作の作画は比較的安定しつつも多少メリハリを付けていた印象を受けました。印象的だったのは作画節約回だったと思われる8話で、ある意味ネタとしても楽しめた露骨な使い回しや所々に入るコミカルな動き、特定部位への拘りなど全編で行われれば問題ですが、1話程度ならネタとして楽しめるといった作画、演出でした。
その一方戦闘などは頑張っていて、文字で発動した事が表現される魔導やそれを駆使した戦闘は見応えがあります。
特に6話でモモが暴走する場面は敵が気の毒に感じられる程のブチのめし具合と派手さでしたし、最終盤のラストバトルは敵のなかなかおぞましい造形からの動きなどが凝っていて好印象でした。
まとめ
個人的には当初はそれほど期待していなかったのですが、3話から面白くなり始めて6話から一気に面白く感じられる様に感じられた作品です。
ストーリー的にはまだまだこれからといった印象で重要な部分は何一つ解決しないまま、私たちの旅はこれからだといった雰囲気で終わっています。
しかし原作ストックはまだある様ですし、ラストにいくつもの布石を散りばめるなど2期への意欲が強く感じられました。
そう遠く内うちに2期が放送されるものと期待したい所です。