目次
DATA
- タイトル:天才王子の赤字国家再生術
- 放送クール:2022年冬
- 話数:12話
- 制作:横浜アニメーションラボ
- 監督:玉川真人
- 脚本:赤尾でこ、篠塚智子、大知慶一郎

覇権国家の脅威に晒される弱小国家・ナトラ王国。
公式サイトより抜粋
若くして国を背負うことになった王子・ウェインは、 補佐官のニニムに支えられながら、才能を活かした見事な手腕を発揮し始める。
でも、この国…….めちゃくちゃ詰んでる!
内政に手を入れようにも金がない。
よそから奪おうにも軍事力がない。 まともで優秀な人材は他国に流出してしまう。
「早く国売ってトンズラしてえ」
ウェインの願いは、とっとと隠居して悠々自適の生活を送ること。
大国に媚びを売り、国を売れば夢が叶うはず。 しかし、外交も軍事も予想外の方向へ転がってしまい……!?
知恵と機転で世界を揺るがす 天才王子の弱小国家マネジメント、ここに開幕!
概要
本作は鳥羽徹氏によってSBクリエイティブからGA文庫にて刊行されたライトノベル原作のアニメとなっています。
原作既刊11巻のうち5巻までを描いているようです。
小国を支える王太子
本作は舞台となる大陸の北端に位置する小国『ナトラ王国』の王太子である「ウェイン・サレマ・アルバレスト」が主人公となっています。普段は病床にある父王の摂政として政務を行っているウェインはタイトル通り天才的能力を持っていますが、怠け者な面があり、幼なじみで補佐官を務めているヒロイン「ニニム・ラーレイ」に対しては国を売ってノンビリ過ごしたいとこぼしています。
ただウェインの見立てではナトラは大陸北端という寒冷な土地で地勢も荒れ地と岩が多い事から、資源と産業が無いために大きな価値は無く、少しでもナトラの豊かな国にして価値を上げてから売りたいと考えている様です。最終的には自分の生活を考えてはいるものの、その前提として自国を豊かにしたいという姿勢は為政者としては優れていると言えるかも知れません。
そんなウェインの元にある日一報が届きます。西隣にある『マーデン王国』がナトラへ侵攻してきたというのです。マーデンは近年までナトラと大差無い国であったものの、領内に金山が見付かった事により国力は向上したと見られています。
そこでウェインはマーデン軍を迎え撃つ事にするのですが、ここからナトラ王国の飛躍が始まるのでした。
練られた設定と世界観
本作の舞台となる大陸は中央を縦断する巨大な山脈が走り、ナトラはその北端の先という位置になっています。一見大陸の東西を繋ぐ要所で銀河英雄伝説に登場するフェザーン自治区の様な位置に見え、交易や商業をもって栄えられそうと思われるのですが、他にも東西を繋ぐルートは存在し、ナトラは北に寄りすぎている事もあってか東西連絡路としても寂れてしまっている様です。
そもそも大陸の東西で宗教的、文化的な相違があるからか仲は良くない様子です。西側は『レベティア教』という宗教を頂点にして大小様々な国家が存在し、現実世界での西欧諸国を思わせますが、東側は覇権国家たる『アースワルド帝国』が収めるという、現実の歴史に存在した帝国で西欧に対抗出来る存在としてロシア帝国かビザンツ帝国を思わせ、こういった現実世界での歴史を彷彿とさせる設定がなされています。作中ではいくつかの設定が語られる場面がありますが、ウェインの妹である「フラーニャ・エルク・アルバレスト」と教育係の会話という形を取っている為に分かりやすく、説明口調と感じさせにくくなっているのは好印象と言えます。
そしてナトラはその位置から東西の緩衝地帯になっていると見えなくもありませんが、ウェインが大陸にその名を轟かせる様になると東西ともに自陣営に引き込もうとする動きが見え始めます。ただウェインは後述する人種問題があってか、基本的には東寄りという風に見えます。東西の違いで視聴者に最も分かりやすいものとして『フラム人』の扱いが挙げられます。ニニムが属しているフラム人は白い髪と赤い瞳が特徴ですが、レベティア教の教義で邪悪な存在とされ弾圧対象となっているのに対し、帝国が統治する東側はフラム人に対する差別などは存在していないという事があります。
更にウェイン自身帝国への留学経験がある事もあって帝国に対する抵抗感は感じられない様に見えます。その上少し前までナトラ国内に帝国軍が駐屯するなど半属国の様な状態だった模様です。もっともその間にナトラ軍は帝国流の練兵を受けていた様です。
恐らくこのまま帝国が西側へ勢力を広げようとするならウェインはナトラを帝国に売り渡す算段を立てていたかも知れません。
戦乱を勝ち抜く天才王子
しかし帝国を一代で大陸東部統一まで成し遂げさせた皇帝が後継者を定めず急死した為に帝国内は混乱状態となります。死因も特に明言されておらず、急死という事しか分かっていない為帝国を脅威に感じた西側による暗殺もあり得るのではと思いますが、作中でそういった説などは出ている様子はありません。
そして一応ナトラと帝国の同盟は維持されたものの帝国軍がナトラ国内から引き上げた為、マーデンに好機と思われた様です。
つまる所皇帝の急死による帝国の政情不安定化が大陸全体を不安定化させているように見えます。帝国軍がナトラ国内から引き上げた事によりマーデンによる侵攻を招き、ウェイン率いるナトラ軍によって返り討ちされたマーデンは隣国により滅ぼされてしまいます。
更には東西双方からナトラに対する干渉があったり、帝国内の混乱を助長する様な策謀にレベティア教の影が見え隠れします。
そういった事態に対し、ウェインは主に外交的、政治的手段をもって対応していくのが大きな見所となっています。
最初のマーデン戦は敵軍の将兵ともに質が高いと言えずいかにもチュートリアルか噛ませ犬といった雰囲気でしたが、物語が進むと帝国皇女でウェインとニニムの元学友である「ロウェルミナ・アースワルド(ロワ)」の様に政治的駆け引きに優れた相手だったり、レベティア教の上層部である選聖侯には謀略家だったり軍事能力に優れた人物がいたりと一筋縄では行かなくなってきます。
そして最終盤、強敵の侵攻を受けてナトラ軍は劣勢に立たされ後退を余儀なくされます。高い武力を誇る敵に対してウェインは外交的、政治的手段をもって劣勢を覆そうとします。
その際の交渉で用いられたウェインのブラフにブラフを重ねた脅迫は一部事実を交える事で説得力を補強してはいますが、多少無理があるのではという気がしなくもありませんでした。
果たしてウェインはナトラの危機を救えるのでしょうか。
作画、雰囲気
本作はジャンルとしては戦記ものと言えますが、実際に戦が行われる場面というのはそれ程多くありませんし、あっても軍勢を駒に見立てた陣形図や地図による推移という形で省エネしつつも視聴者には分かりやすい手法を採っています。激しい戦場の様子を多くの視聴者が満足行く様に描写するには相応の人員や予算が必要になると思われます。そのため作画崩壊しかねない無理な描写を避けて視聴者にも分かりやすい描写にしたのは英断と言えそうですが、これは作品の雰囲気にあっていた事もあるかも知れません。
そんな本作の雰囲気としては一見コミカルで明るいのですが、国家間の政治や策謀に戦や暗殺などやや殺伐した面もあります。
まとめ
本作はタイトルだと内政物かと思いますが、実際には戦争や謀略、国家間の政治的駆け引きが中心となっています。
しかしストーリーそのものはライトな雰囲気で肩はらずに楽しめるのではと思われます。
また2期が作れそうな程度の原作ストックはありそうですので、出来るのであれば2期も期待したい所です。