1999年 講談社文庫

覗く男と覗かれる女、究極の折原マジック。ベットの上にのびた恍惚の白い脚──男の妄想が惨劇を呼ぶ! ベッドの上に白くすらりとした脚が見える。
Amazonより
向かいのアパートの201号室に目が釘付けになった。怪しい欲望がどんよりと体を駆けめぐる。あちら側からは見えないはずだ──屋根裏部屋から覗く男と覗かれる女の妄想がエスカレートし、やがて悪夢のような惨劇が。
折原ワールドの原点ともいうべき傑作長編!
概要
本作は叙述トリックを駆使する作風から叙述トリックの名手とも呼ばれている作者のデビュー作で、1998年に東京創元社から刊行された作品の文庫版です。
複数視点を用いたトリックが特徴となっています。
アルコール依存層だった主人公
冒頭で意味ありげなシーンが語られた後は、本作の主人公でアルコール中毒の治療を受けた翻訳家「大沢芳男」の視点を中心にして進行します。彼は伯母と二人で暮らしていますが覗きを趣味としていて、かつてそれが原因で他殺体を発見したショックからアルコール依存症になったという経緯があります。気の毒な気はしますが、そもそもの原因が覗きということもあってか同情しかねると言えます。そんな芳男は現在向かいのアパートに住まう女性が気になっている様子を見せています。
他の登場人物たち
他の視点として社会人になったばかりのOL「清水真弓」の日記が記されます。彼女が芳男宅の向かいにあるアパートに入居し、社会人生活を送る様子が記されます。
その日記は始めの頃はいかにも社会人成りたてといった印象を受ける、初々しい雰囲気の文章となっています。しかし彼女の研修を担当したという上役の「高野広志」と再会してからやや趣きが異なって来ます。
その他芳男に恨みを抱いている様子を見せる、アルコール依存症のコソ泥、曽根の視点が入り込みます。
不穏
中盤、芳男は出版社編集長の藤井に酒を飲まされてアルコール依存症を再発させます。
それにより幻覚や妄想が出始め、不穏な雰囲気となります。
一方の真弓も会社の上役である高野とただならぬ仲となります。
暴走する芳男に加えて謎の女性連続傷害事件、曽根の不法侵入など不穏な動向には事欠きません。
話は嫌な緊張感を帯びつつ進み、主な登場人物は皆問題があり、何が起きても不思議では無いという雰囲気が漂います。
そして終盤、物語は急速に不穏さを増して、臨界点に達します。それからが見ものです。果たして読者はそれまでに真相を見破れるでしょうか。
終盤に来て圧倒的な牽引力を発揮するストーリー。それに引っ張られているうちに驚愕の真相に打ちのめされるか、その前に見破れるかは読者次第であると言えます。
まとめ
複数の文体で読者を煙に巻いて騙す。
先述した様に、本作はそんな叙述トリックを駆使する作風から叙述トリックの名手とも呼ばれている作者のデビュー作です。
複数視点を持って読者を惑わしてから予想外の真実へ持っていくのが特徴と言えます。
本作についてはその叙述トリックを構成するあるトリックが、伏線はありながらもやや強引と思える向きがあります。
ただ作中に登場する人物たちが何らかの狂気を抱えており、それによって緊張感を持って読み進める事が出来たという印象です。