1992年 折原一 講談社文庫

精魂こめて執筆し、受賞まちがいなしと自負した推理小説新人賞応募作が盗まれた。―その“原作者”と“盗作者”の、緊迫の駆け引き。巧妙極まりない仕掛けとリフレインする謎が解き明かされたときの衝撃の真相。鬼才島田荘司氏が「驚嘆すべき傑作」と賞替する、本格推理の新鋭による力作長編推理。
Amazonより
概要
本作は1988年江戸川乱歩賞の最終選考まで進むも残念ながら落選した作品です。もしこの作品が受賞していれば前代未聞の作品になっていたと思われますが、残念ながらそうはなりませんでした。
翌89年に東京創元社から刊行され、さらに翌90年には日本推理作家協会賞候補となっています。
その後の文庫版となります。
推理小説の応募原稿をめぐって
推理作家を志す青年「山本安雄」は『幻の女』という推理小説を書こうと挑戦していました。
日々机の前でうなっていますが、なかなか構想が浮かびません。そもそも普通は何らかの構想があってから書き出す物では無いのでしょうか。プロとしてデビューしている訳では無いのに構想段階でひたすら悩み続けているのは如何なものかと思ってしまいます。
そんなある日、ネタを探して立ち寄った書店で突如として構想が浮かび一気に書き上げますが、それが事件の始まりでした。
応募原稿をワープロで清書する事を友人の「城戸明」に勧められて清書するものの、明は原稿を紛失してしまいます。
そしてその原稿を拾った失業者「永島一郎」は原稿を横領して投稿する為、安雄を亡き者にしようと企みます。経済的に困窮しつつある永島は最早手段を選ばないという印象を受けます。
新人推理作家と惨劇
その後安雄が執着し書き上げたタイトルの、『幻の女』という作品でデビューした新人作家「白鳥翔」やその恋人、出版社の編集者藤井といった人物の身辺に、復讐に燃える安雄が現れて白鳥を陥れようとします。
白鳥は安雄の執拗な嫌がらせよって精神的に追い詰められて行く様子が見て取れます。
それだけでなく関係者の周辺で不審人物が現れて暗躍し更なる事件が起き、犠牲者が出ます。
犯人は安雄かそれとも他の人物かと行った点は気になって読み進める事が出来ます。
ただ事件の真相については、多少強引と思える点もあります。しかし作者による倒錯の世界に浸かってしまうと、意外な結末も含めて何故か納得してしまえるから不思議です。
まとめ
本作最大のポイントはラストに「安雄が作中で出来上がった『倒錯のロンド』を乱歩賞に応募する」という点です。しかも文庫版あとがきを見ればわかりますが、作者は「山本安雄」名義で応募していたようです。
乱歩賞の選考委員も、この企みに乗ってくれても良かったのではないかと思いますが、やはりこの手のトリックが理解されるのには早かったのでしょうか。
前作との比較など
同じ『倒錯』を冠している、作者のデビュー作『倒錯の死角』と比べた場合、「死角」は叙述トリック以外も用いているものの全体的に明確で分かりやすく、ほぼ叙述トリック頼りの本作は『死角』と比べて筋書きが入り組んでいるという印象を受けます。どちらにせよやや強引な向きはありますが。
本作に限らず、作者である折原氏は文章や筋書きそのものをトリックとする叙述トリックが主体という性質上、筋書きが複雑になっていっているという印象を受けます。
複雑でかつ叙述トリック前提となるとどうしても読みにくくなってしまいますので、個人的にはまだ最初期にあたるこの二作が印象に残っています。