【ミステリ】歪んだ創世記【感想】

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DATA

  • 刊行年:1998年
  • 著者:積木 鏡介
  • 出版社:講談社
  • レーベル:講談社ノベルス
6.5 out of 10 stars (6.5 / 10)

全ては何の脈絡も無く唐突に始まった。過去の記憶を全て奪われ、見知らぬ部屋で覚醒した私と女。舞台は絶海の孤島。三人の惨殺死体。生存者は私と女と、彼女を狙う殺人鬼。この島でいったい何が起きたのか?

Amazonより

概要

本作は第6回メフィスト賞受賞作です。
メタ手法を用いた「メタミステリ」といえ、唐突な始まりも特徴的な作品です。

結から始まる

本作では目次ならぬ『道標』というページがあり、一筋縄では行かない作品であると思わせます。
そしてその次のページが『結』となっています。結末から見せてそこに至る経緯を語る構成というのも斬新というわけではありません。ちなみにこのページには新聞記事からの抜粋という形をとっていて、「絶海の孤島で男女五人の遺体を発見」ということが説明されています。

シーンをひとつ挿んで、いよいよ本編に移っていきますが、そのシーンでは孤島の屋敷にある一室で目を覚ました主人公の青年が登場します。
そしてベッドの下から這い出た若い女性。しかも二人とも記憶を失っていて、青年の手には斧が握られています。いったいどういう状態なのでしょうか。そういった印象的なシーンから話は進んでいきますが、当然一筋縄ではいきません。

よみがえる死者、主人公たちを狙う殺人鬼の存在、そういったものが出てきますが、本作の主題はそういったものではありません。

中盤以降明らかになる異様な対決、普通に考えれば主人公たちは追い込まれていくのが当然です。果たして二人は助かることができるのでしょうか。

大雑把な粗筋としてはこんなところでしょうか。
本格推理から脱線していますが、全く気になりません。文章が多少過剰な部分なども気にならないほどのパワーがあります。ですが、メタミステリーと先述したとおり、本作にはメタ手法が用いられています。しかも相当過剰に用いられていますので、本格推理を求める方やリアリティーなどを求める方にはお薦めできません。

メタ手法

本作の構成ですが、主人公「有賀」と「作者」の視点が中心となっています。何とか脱出しようとする有賀とヒロイン「由香里」、それに対し作者は破綻してしまった物語の辻褄を合わせようと二人を殺しにかかります。無茶苦茶ですが、凄まじい展開といえます。

普通に考えれば作者の楽勝だろうと思われますが、意外なことに二人は健闘します。しかも作者のほうにも縛りがあり、作中の雰囲気をぶち壊すのは出せないという点が健闘の要因でしょう。

作者と作中人物の行き詰る戦いの行方はといった様相ですが、それでは何のジャンルか分かりません。
しかし最後に『真犯人』が明らかになります。

まとめ

本作は過剰なメタ的手法を用いたミステリといえます。
作中人物と作者の対決などというのは普通思いついても書かないと思われますが、本作は上手く調理して怪作といえる出来にまで仕上げたといえます。
また裏表紙も注目点といえ、意外にも伏線はしっかりしています。
主人公たちと作者の対決に目が行きがちですが、そういったところにも目を配ってみるのもひとつの楽しみ方かもしれません。